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月光の誘惑《番外編》
第1章 月下の桜(一)

 十二月に入り、街はイルミネーションで彩られ、カップルは幸せそうに手を繋ぐ。
 ファミリーは楽しそうに月末の予定を話し合い、真っ赤な服を着てヒゲをつけただけの偽物サンタクロースがあちこちで笑っている。
 俺の心の中は木枯らしが吹き荒び、「皆滅びろ、リア充爆発しろ」とすべての人に毒づくような言葉が頭の中を巡る。

 あぁ、本当にツイてない。

 先日、由加に振られたこともツイてなかったし、合コンに行ってもなぜか由加と別れた事情が知られていて女子が俺を睨んでくるし、クリスマスイブに予約してあるホテルのスイートはキャンセルしないといけないし、「もう家族旅行なんて歳じゃないでしょ」と年末年始恒例の海外旅行が両親から却下されたし……あぁ、本当にツイてない。

 地下鉄のコンコースを歩きながら、溜め息ばかり零す。都会の人間は気忙しげに早歩きをし、幸せばかり逃している男を気に留めたりはしない。

 大体、俺は……俺の親は金持ちだけど、俺自身はそんなに金を持っているわけじゃない。
 それに、ゆくゆくは親の仕事を引き継いで社長になるとは言っても、付き合っている女と結婚できるわけじゃない。会社のために、親に決められた相手と結婚することになっている。

 敷かれたレールの上を走らされているだけの男に、「自由に使える大金」と「結婚を意識した付き合い」を求めるような女――由加のほうに落ち度があるだろ。
 俺は悪くない。
 でも、なんで、「サイテー」と罵られて、ビンタされて、振られなきゃいけないのか、本当にわからない。遊びを遊びだと言って、何が悪い?

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