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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 聖夜の恋人
小客間に二人きりになった途端、沈黙が二人の間を支配する。
光は暖炉の前のソファに座り、ぎこちなく縣の視線を避けている。
それはさながら縣の存在を厭わしく思っているように見え、縣は先ほどまで熱いほど感じていた高揚感がみるみる内に消え失せてゆくような気がした。
…光さんは、もしや私に何の感情も持ってはいないのではないのだろうか。
縣は勇気を奮い起こし、口を開く。

「…神谷町のお屋敷に伺ったのだ」
光がようやく視線を上げる。
美しい琥珀色の瞳が縣を捉える。
…美しい…稀有な宝石のような瞳だ。
縣は久しぶりの陶酔感に包まれる自分を感じる。
「…お母様は良くなられたのだね。良かった…」
「梨央さんに聞いたのね?…ええ、ありがとう。お陰様でだいぶ良くなったわ。もう軽い外出は出来るくらいに」
光が初めて笑顔を見せる。
縣はほっとした。
「…なぜ、教えてくれなかった?お母様が心配だから帰国すると…」
光は首を振る。
「…そんなことを伝えたら、貴方は凄く心配するわ。…私は貴方を煩わせたくなかったの」
…やはり…。光さんはどんな時も相手を気遣う人なのだ。

場の雰囲気を変えたくて、話題を変える。
「…なぜ北白川家に?神谷町のお宅にいなかったから驚いたよ」
光は肩を竦めた。
「父が、私1人をあの屋敷においておけない…て。母や妹は京都だし。私がいきなり家を飛び出してパリに行くのではないかと心配しているのよ。
北白川家なら厳格な執事がいるし…。この歳で子供みたいに預けられてしまったわ」
二人は顔を見合わせて、初めて小さく笑い合った。
光が縣を見つめる。
その瞳の中には隠しようもない切ない色が浮かんでいた。
縣もまた光をじっと見つめ、口を開きかけ…しかし、縣は大切なことを思い出した。
縣は情動に流される前に伝えなくてはならないことがあったのだ。
ジャケットの内ポケットから新聞とポストカードを取り出す。
そして光に手渡す。
「フロレアンの絵がル・サロン賞に輝いたそうだ。…その新聞と複写の絵だ」
光の大きな瞳が驚きに見開かれる。
震える手が新聞とポストカードを受け取る。
「…フロレアンの絵が…ル・サロン賞に…!」
食い入るように新聞記事と、そして絵を見つめる。
「良かった…良かったわ…フロレアン!」
…絵のタイトルは「belle lumiere -美しき光-」
光の頬を透明な涙が流れ落ちる。

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