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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
週末、ロッシュフォール夫人の誕生日会は華やかに開催された。
7区のロッシュフォール家本邸は、フランスの貴族文化が華やかに花開いた頃の面影を残したロココ様式である。
白壁に茶色のアクセントのドーム型の広間、ロカイユの装飾が華やかに施された室内、豪奢な家具、クリスタルの輝き、フランス革命での強奪を免れた名画の数々が広間や廊下に飾られ、ロッシュフォール家の輝かしい歴史を静かに物語っていた。

執事を始め従者らが整然と整列し、次々と到着する錚々たる来賓達を出迎える。
車寄せに留めらたメルセデスから降りながら、縣は感心したように呟く。
「…さすがはブルボン王朝の流れを汲むロッシュフォール侯爵家だ。マダムロッシュフォールの誕生日会も政界財界のお歴々まで招かれている」
そして、車から降りる光に恭しく手を差し出す。

光の白く照り輝く美しい手が優美に伸ばされ、縣の手に包み込まれる。
車から降り立った光を見て、一瞬縣は息を呑んだ。
美しい絹糸のような黒髪は優美に結い上げられ、縣がプレゼントした貴重な宇和島産真珠のティアラが飾られている。
シフォンベルベットの黒のイブニングドレスに身を包んだ光は、その類稀なる美貌と共に神々しいまでに光輝いていた。
思わず見惚れて言葉が出ない縣を見て、光は怪訝そうな顔をした。
「どうかしたの?」
その声に我に帰る。
「…いや…君があまりに美しくて…驚いた…」
飾りのない率直な言葉に光はどきりとし、少し照れたように俯いたがすぐに縣を見上げ、魅惑的な笑みを浮かべた。
「…ありがとう、縣さん。何から何まで…。これは秘書にかける経費を超えてるわ」
光に腕を差し出し、安心させるように朗らかに答える。
「私は美しいレディを見るのが大好きなんだ。美しい君は私を幸せな気持ちにしてくれる。こちらこそ、ありがとう」
光は縣の上質な燕尾服の腕をぎゅっと握りしめた。
「…貴方は本当に良い方ね。…なのになぜ私はすぐに貴方に好戦的になってしまうのかしら」
小首を傾げる仕草が可愛らしい。
縣は悪戯めいた表情で目配せする。
「では今宵は休戦としよう。マドモアゼルヒカル」
「ええ、ムッシューアガタ。賛成だわ。今夜は貴方とは良い雰囲気でいたいもの」
「さあ、行こう。ジュリアンが痺れを切らして待っていることだろう」
二人は従者に出迎えられながら、優雅に玄関ホールへと歩き出した。



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