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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
暫く父親が出て行った扉を見つめ続ける光に、縣は声をかけた。
「…光さん、麻宮侯爵は君に似ているね」
驚いたように振り返る光の瞳は水晶のように輝いていた。
「真っ直ぐで自分に正直だ」
「…そう…。私は誰よりも父親似なの…。嫌になるほどね…」
その笑顔は娘らしいはにかみに溢れていた。

ジュリアンが口笛を吹き、縣の肩に手を回す。
「アガタ、君は一体どんな手を使ってあの日本のサムライを宥めたんだい?」
「私も聞きたいわ。あの頑固者の父親を大人しく引き下がらせるなんて…」
縣は二人にウィンクしてみせた。
「相手は同じ人間、しかも日本人だ。腹を割って話せば分かってくれるものさ」
「この人たらしめ!…ヒカル、アガタはいつもそうなんだ。敵対している相手の懐に入って、気がついた時にはすっかり懐柔している。全くすごい才能さ」
光は改めて縣を感極まったように見上げる。
「…本当ね…。縣さんはすごいわ…私、なんて言ったらいいのか…」
縣は湿っぽくならないように、明るく両手を広げてみせた。
「喜ぶのはまだ早いよ。私は麻宮侯爵に君を預かることの了解を得ただけだからね。…二人が最良の選択をできるよう説得すると言い添えてね」
ジュリアンは眼を見張る。
「それじゃあ…」
「そう。私は二人を別れさせるとは一言も言っていない。…最良の選択、だからね。まあ、私が時間稼ぎしている間に二人でせいぜい良い抜け道でも考えてくれ給え」
光が思わず吹き出す。
「…なんて詭弁なの!貴方、最高の詐欺師になれるわ」
「人聞きの悪い。私はいつでも人畜無害な紳士さ。…ああ、美しき青きドナウだ」
縣は舞踏室から聞こえるヨハンシュトラウスに耳を傾ける。
そして、改めて光に向き合い優雅に胸に手を当てお辞儀したのち、優しい微笑みを浮かべてその男らしい美しい手を差し出した。
「…踊っていただけますか?マドモアゼルヒカル。ドラマチックなパリの夜の記念に…」
光もその美しくも艶めいた琥珀色の瞳に笑みを浮かべ、しなやかに膝を折る。
そして、白く輝く美しい腕を差し伸べる。
「もちろんですわ。喜んで、ムッシューアガタ」
手を取り合った二人が舞踏室に向かって滑らかに歩き出す。
扉の前の下僕達が恭しくお辞儀しながら、二人に扉を開いた。

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