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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
縣と麻宮侯爵が客間を出たのは一時間以上はたっぷりと経ってからであった。
広い吹き抜けの玄関ホールで、麻宮侯爵はセバスチャンからコートを着せ掛けてもらうと、縣に告げた。
「…それでは縣男爵、光をよろしく頼む」
縣は微笑み、敬意を表したお辞儀をした。
「はい。全力で光さんをお護りいたします。ご安心下さい」
麻宮侯爵はじっと縣を見つめると、独り言のように呟いた。
「…君が光の恋人だったのなら、私は喜んだのだが…」
縣は端正な顔をほころばせ、両手を広げた。
「なんと嬉しいお言葉を!…しかし、残念です。私は光さんのお眼鏡には叶いませんでした…」
その時、突然舞踏室の扉が開いた。
「…お父様!」
二人が一斉に振り返ると、黒いイブニングドレス姿の光が、思いつめたような顔で足早に近づいて来た。
ジュリアンが慌てて光を追いかける。
「…お父様…」
光が辛辣な言葉を投げつけるかと麻宮侯爵はやや構えて対峙した。
しかし光はじっと麻宮侯爵を見つめると、小さな声で詫びた。
「…ごめんなさい…お父様…」
光から思わぬ言葉を聞いて、麻宮侯爵は息を飲む。
そして暫く光をじっと見つめていたが、硬い表情のまま眼を逸らし
「…縣男爵に迷惑を掛けないようにしなさい」
と呟くように言うと、踵を返した。
遠ざかる父親の背中に、光は思わず声をかけていた。
「パパ!」
…それは光が小さな頃、父親を呼んでいた呼称だった。
麻宮侯爵がびくりと肩を揺らした。
縣は驚いたように光を見つめた。
「パパ…お母様には…?」
不安げな光の声に、麻宮侯爵は振り返らずに答える。
「…お母様には、お前は欧州旅行に出かけていると言ってある」
「…お母様はお元気?」
「…ああ…。相変わらず身体は弱いが、変わらずに過ごしているよ。…お前に会いたがっているがな…」
光の美しい顔が歪んだ。
「お母様…」
縣はそっと光の肩を抱いた。
麻宮侯爵は帽子を被ると
「…私はお前を日本に連れ帰るのを諦めた訳ではないからな。頭を冷やしてよく考えなさい」
と、ややくぐもった声で告げると執事に案内されながら、威風堂々と玄関ホールを出て行った。
「…パパ…!」
6歳の幼女に戻ったかのような光の声が、ホールに響き渡った。
広い吹き抜けの玄関ホールで、麻宮侯爵はセバスチャンからコートを着せ掛けてもらうと、縣に告げた。
「…それでは縣男爵、光をよろしく頼む」
縣は微笑み、敬意を表したお辞儀をした。
「はい。全力で光さんをお護りいたします。ご安心下さい」
麻宮侯爵はじっと縣を見つめると、独り言のように呟いた。
「…君が光の恋人だったのなら、私は喜んだのだが…」
縣は端正な顔をほころばせ、両手を広げた。
「なんと嬉しいお言葉を!…しかし、残念です。私は光さんのお眼鏡には叶いませんでした…」
その時、突然舞踏室の扉が開いた。
「…お父様!」
二人が一斉に振り返ると、黒いイブニングドレス姿の光が、思いつめたような顔で足早に近づいて来た。
ジュリアンが慌てて光を追いかける。
「…お父様…」
光が辛辣な言葉を投げつけるかと麻宮侯爵はやや構えて対峙した。
しかし光はじっと麻宮侯爵を見つめると、小さな声で詫びた。
「…ごめんなさい…お父様…」
光から思わぬ言葉を聞いて、麻宮侯爵は息を飲む。
そして暫く光をじっと見つめていたが、硬い表情のまま眼を逸らし
「…縣男爵に迷惑を掛けないようにしなさい」
と呟くように言うと、踵を返した。
遠ざかる父親の背中に、光は思わず声をかけていた。
「パパ!」
…それは光が小さな頃、父親を呼んでいた呼称だった。
麻宮侯爵がびくりと肩を揺らした。
縣は驚いたように光を見つめた。
「パパ…お母様には…?」
不安げな光の声に、麻宮侯爵は振り返らずに答える。
「…お母様には、お前は欧州旅行に出かけていると言ってある」
「…お母様はお元気?」
「…ああ…。相変わらず身体は弱いが、変わらずに過ごしているよ。…お前に会いたがっているがな…」
光の美しい顔が歪んだ。
「お母様…」
縣はそっと光の肩を抱いた。
麻宮侯爵は帽子を被ると
「…私はお前を日本に連れ帰るのを諦めた訳ではないからな。頭を冷やしてよく考えなさい」
と、ややくぐもった声で告げると執事に案内されながら、威風堂々と玄関ホールを出て行った。
「…パパ…!」
6歳の幼女に戻ったかのような光の声が、ホールに響き渡った。