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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
翌日から二人は、以前と変わらず軽口を叩いたり、笑いあったりと昨晩の出来事は綺麗に忘れ去ったかのように過ごした。
しかし、お互いふとした瞬間に同じ空間にいる相手を見つめ、視線を感じた相手と目が合い、慌てて逸らす…というぎこちない行動を暫し繰り返していた。
特に光は、縣の姿につい目がいってしまう。
縣が美しい姿勢で書き物をしたり、真剣な眼差しで調べものをしたり、或いはフランス人相手に堂々と交渉をしたりする横顔の逞しさや声の美しさなどを盗み見ては今まで感じたことのないときめきを覚え、そんな自分に激しく動揺した。

…何を考えているの。
私にはフロレアンがいるのよ。縣さんに心惹かれるなんて…。

夜会の夜の縣を思い出し、身体が熱くなるのを感じた。
縣に触れられた指の感触…。
微かに触れ合った甘い吐息…。
嫋々とどこか愁いを帯びた黒い瞳は、何かを訴えていたように思えた。
…あの時、縣さんはなぜ、私にキスしなかったのだろうか…。
あの夜、あの瞬間、確かに二人はお互いを求め合っていた。
あの時、もし縣さんにキスをされていたら…。
私は…。

光はため息を吐きながら首を振る。
…どうにもなっていないわ。
縣さんは誰よりも紳士だもの。
恋人がいる私を誘惑するような方じゃない。
…誰よりも優しくて、誰よりも紳士…。
それが縣さんだもの…。
光は小さく笑い、もう縣のことは考えまいとするかのように髪を揺すり、お茶の指示を出すべく階下に降りた。

丁度、玄関ホールで郵便配達人から電報を受け取ったらしいアンヌが光を見かけると近づいてきた。
「ヒカル様、アガタ様に電報でございます。…日本からの特別配達のようですわ」
「ありがとう、アンヌ。私から縣さんにお渡しするわ」
光は内容を気にかけながらも、降りて来たばかりの階段を素早く駆け上がり、縣の書斎の扉をノックした。

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