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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第1章 ムーランルージュの夜
ムーランルージュを出て、ジュリアンの運転する車に乗る。
ルノーの洒落た新型車だ。
車に目がないジュリアンは、日本では彼を溺愛する母親が心配するのでおとなしくお抱えつき運転手が運転するメルセデスの後ろに収まるが、パリでは生き生きと派手な車を乗り回している。
無論母親には内緒だ。
「家まで送るよ」

縣はパリ滞在中はロッシュフォール家が16区の高級住宅街に所有する瀟洒な別邸に間借りしていた。
ジュリアンは7区のロッシュフォール本家の屋敷に寝泊まりしている。
「本当はアガタと泊まりたいけど、ロッシュフォールのグランマが僕を離さないのさ」
一度ロッシュフォール家を訪問した際に挨拶をしたことがあるが、ジュリアンの祖母はさながら女王陛下のように近寄りがたい威厳を持った老婦人だった。
ブルボン王朝の血を引くという女主人は、縣が日本のバロンだと紹介されなかったら恐らくは、その手の甲にキスすることすら許さなかっただろう。
大切な息子が貴族の令嬢とはいえ東洋人と結婚した時には快く思わなかったようだが、ジュリアンが生まれてからは愛らしい天使のような顔をした初孫にすっかり心を奪われてしまった。
「グランマはあの屋敷に1人だからね。僕がいる時くらいは一緒にいてあげなきゃ」
器用にハンドルを切りながらジュリアンはウィンクする。
幼少期は祖母と暮らしていたジュリアンは、なんのかんの言いながら優しい孫だ。
縣はその様子を微笑ましく思いながら、窓の外を見るともなく眺めた。

車がピガール広場に差し掛かると、途端に妖しげな店が増えて来る。
ムーランルージュはいわゆる高級キャバレーだが、この辺りは品下る安っぽいキャバレーやバーが軒を連ねている。
スリなども多いので、気をつけるようにジュリアンに言われたものだ。

ふと、下品なピンクの電飾に彩られた一軒の安キャバレーから出てきた1人の若い女性がなんとなく縣の視野に入った。
…次の瞬間縣は眼を見張り、咄嗟に振り返った。
「光さん…⁈」
車はまたたく間に広場を過ぎ去り、窓の外は違う風景を映し出していた。
…若い女性の姿はどこにも見えない。
「どうした?アガタ」
「…いや…」
…光さんに似ていた…。
梨央さんの美しい従姉妹…。

まさか…。
縣は自分に苦笑し、首を振る。
あの誇り高い麻宮侯爵令嬢の光がこんな安キャバレーから出てくる訳がないのに…。







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