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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
…縣は夢を見ていた。

まだ小学生の頃、祖父に連れられて九州は飯塚の炭鉱の町を訪れたことがある。
祖父と縣が乗った黒塗りのフォードが炭鉱の現場に着くと、全身煤で真っ黒な炭鉱夫達がわらわらと寄ってきて、嬉しそうに挨拶をしてきた。
「縣の大将!いつ東京から戻りんしゃったとですか?」
「うわあ!可愛か坊ちゃんたい!大将のお孫さんとですか?」
「なんちゅう品のよか坊ちゃんたい!さすがは大将のお孫さんたい!」
きつい九州弁で話す炭鉱夫達は、縣が今まで見知ってきた周りの上品な大人とは全く違った人種だった。
がさつだが豪快で無邪気な男ばかりだった。
祖父は嬉しそうに縣を炭鉱夫達に紹介する。
「可愛かろう?孫の礼也たい。頭も良くて運動も出来て、いい男やろ?ピアノも上手いったい。今、学習院の幼稚舎に行っとるんじゃ」
炭鉱夫達が一斉に歓声を上げる。
「へえ!ピアノ⁈さすが大将のお孫さんたい。」
「学習院ちゃあ、皇太子様もお通いになる学校やろ?すごかねえ、大将のお孫さんは!」
炭鉱夫達は羨望の眼差しで縣を見つめ、紺色の制服をしげしげと眺めた。
縣は恥ずかしそうに祖父の陰に隠れた。

暫くして炭鉱夫は祖父からの差し入れの菓子を分けて貰いに、賑やかに休憩所に向かった。
祖父はしゃがんで縣の目線に合わせ、炭鉱の山を指差す。
「礼也、よく見い。あそこの山で爺ちゃんはお前位の歳から働いとったたい」
縣は目を丸くする。
「お祖父様が?」
縣の歳からと言えば6歳だ。
「そうたい。6歳からずっとあの険しい炭鉱の山で朝から晩まで働いていたったい」
「お祖父様、すごい!」
素直に感心する縣に祖父は目を細めて頭を撫でる。
「儂はいつかこの山を買い取って更に大きな炭鉱の山を買う、そうして九州の炭鉱の町全てを手に入れると決めたったい」
「…お祖父様は夢を叶えられたの?」
「そうたい。なあ礼也。儂のことを業突く張りだの金の亡者だの言う奴がおるが、儂は自分が金持ちになりたいだけで成り上がった訳じゃなか」
祖父の目は強い光に満ちていた。
「儂はこの町を日本一豊かな炭鉱の町にしたかったんじゃ。この町の連中に旨いもんを食わせて豊かな生活をさせたかったんじゃ。…礼也、儂がおらんくなったらお前が後を継いでこの町をもっと豊かにしてくれるか?」
祖父が礼也の肩に力強く手を置いた。
その手は皺だらけだったが縣には大層美しく見えた。
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