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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
サンジェルマン・デ・プレ教会前のカフェ、レ・ドゥ・マゴは今日も多くの人々で賑わっていた。
店内のチャイナドールがなぜか妙にパリの雰囲気に馴染んでいて、日本人の光には居心地の良いカフェだった。
ソルボンヌ大学が側にあるこの界隈は以前は光がよく友達やボーイフレンドと遊んだり、カフェでおしゃべりしたりと楽しい記憶に溢れた場所だ。
フロレアンと知り合ってからもこのカフェで待ち合わせをしてデートしたものだ。
…あの日々はそう前のことではないのに…。
光は落ち着かない胸のざわめきに自分でも戸惑う。
別れ際の縣の眼差し…寂し気で孤独感に満ち溢れていた。
…縣さん…。
貴方は私のことを、どう思っているの?

「…ヒカル、ヒカル?」
フロレアンの声で我に帰る。
はっとしながら、慌てて笑みを作る。
「ごめんなさい。…ちょっとぼうっとしてしまって…」
フロレアンが気遣わし気に光の顔を覗き込む。
「大丈夫?なんだか元気がないみたいだ…今日は会った時から少しおかしいけど…」
光は明るく首を振る。
「そんなことはないわ。縣さんが肺炎を起こしてしまって…暫く看病していたから。それで少し寝不足なだけよ」
フロレアンは言いづらそうに口ごもるが、光の眼を見て手を強く握りしめた。
「…アンヌさんに聞いたよ。ヒカルがずっとアガタを看病してつきそっていたって…看護婦でも出来ないくらいに献身的に…。ねえ、ヒカル、もしかして…ヒカルはアガタが好きなの?」
光は眼を見張る。
「何を言っているの?そんなわけないじゃないの」
「…だって、ヒカルはアガタといる時、すごく楽しそうだし、アガタもヒカルをとても大切にしている。…アガタはバロンなんだろう?ヒカルは公爵令嬢だし…お似合いな二人だから…僕なんかよりずっと…」
フロレアンの蒼く美しい瞳が哀しそうに曇る。
「…フロレアン、貴方誤解しているわ。…私と縣さんとはなにもないのよ。…ただのビジネスパートナー。心配なんかしなくていいの」
光は子供を宥めるようにフロレアンに語りかける。
不意にフロレアンが光を抱きしめた。
フロレアンは不安気な口調でかき口説く。
「でも…!心配だよ。ヒカルは凄く綺麗で輝いている。そんなヒカルがいつもアガタの側にいるんだから!…ヒカルを取られるんじゃないかって…プロヴァンスにいても気が気じゃないんだ!」
「…フロレアン…」

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