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夜伽月 よとぎづき 
第1章 青い月

無重力で広大に広がるエメラルドグリーン


海の中を月(あかり)は泳いでいた。


…夏休みもあと僅か。


コーディネーターがこちらに合図を送る。

見上げると、双子の妹の景(ひかり)は、既に浮上を始めていた。


ダイビング歴5年の新米助産師の月(あかり)は、新しいウェット・スーツを買った。


――― 白

澄み切った水中の中でよく目立つ色だ。

上昇していく景(ひかり)は、かなり小さくなっていた。

写真を撮り続けていた月は慌てて後をついていく。


数メートル先から、黒い魚影が真っ直ぐこちらへと向かってきた。

月と景の間を銀色の砂嵐が遮る。


――― イソマグロの群れ


ぐるりと 月を取り囲むように 大きな螺旋を描き、視線を阻む。

これほどの大群はかつて見たことが無い。

チカチカと日差しに反射し美しく光る銀鱗。

そして月を囲む螺旋はどんどんと小さくなった。


――― 一瞬の無音。


…え?

群れがするりと身体を通り抜けた感触。

同時に、その魚群に引き摺られるように、海の底へと引っ張られた。


足元にぽっかりと空いた濃い青い渦。


それは闇夜に浮かんだ満月のようにくっきりと、そしてきらきらと光っていた。



その中へと魚群が飲み込まれていく。


…落ち着け。



巨大な渦。


その中へと吸い込まれる身体。



――― バシッ。


一際大きなイソマグロの 尾が顔に当たったのを感じた。


…落ち着け…るわけがない。


月と魚たちは鱗を散らし、ひしめき合いながら、水底へと落ちていく。
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