この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夜伽月 よとぎづき
第1章 青い月
無重力で広大に広がるエメラルドグリーン
海の中を月(あかり)は泳いでいた。
…夏休みもあと僅か。
コーディネーターがこちらに合図を送る。
見上げると、双子の妹の景(ひかり)は、既に浮上を始めていた。
ダイビング歴5年の新米助産師の月(あかり)は、新しいウェット・スーツを買った。
――― 白
澄み切った水中の中でよく目立つ色だ。
上昇していく景(ひかり)は、かなり小さくなっていた。
写真を撮り続けていた月は慌てて後をついていく。
数メートル先から、黒い魚影が真っ直ぐこちらへと向かってきた。
月と景の間を銀色の砂嵐が遮る。
――― イソマグロの群れ
ぐるりと 月を取り囲むように 大きな螺旋を描き、視線を阻む。
これほどの大群はかつて見たことが無い。
チカチカと日差しに反射し美しく光る銀鱗。
そして月を囲む螺旋はどんどんと小さくなった。
――― 一瞬の無音。
…え?
群れがするりと身体を通り抜けた感触。
同時に、その魚群に引き摺られるように、海の底へと引っ張られた。
足元にぽっかりと空いた濃い青い渦。
それは闇夜に浮かんだ満月のようにくっきりと、そしてきらきらと光っていた。
その中へと魚群が飲み込まれていく。
…落ち着け。
巨大な渦。
その中へと吸い込まれる身体。
――― バシッ。
一際大きなイソマグロの 尾が顔に当たったのを感じた。
…落ち着け…るわけがない。
月と魚たちは鱗を散らし、ひしめき合いながら、水底へと落ちていく。