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夜伽月 よとぎづき 
第4章 比丘尼

「とびきりの美人だと聞いてたが…。」

月の心臓は今にも耳から飛び出そうな程、大きく早く鼓動していた。

「ふーむ…。」

辛うじて着くのは爪先だけで、少しでも力を抜けば、今すぐにでも気を失いそうだ。そんな事は御構い無しに、月の顔を穴が空くほど見つめている。

「2人を…殺さない…で…。」

その目は冷たくギラギラとしていた。

「へへへ...自分の命乞いもせず、坊さんの心配か?」

山賊は意地悪く笑うと完全に月を持ち上げた。苦しくて足をばたつかせると草履が脱げて、足袋を履いた脚が暗闇でぱたぱたと泳ぐ。

…く…苦し…い。

「尾びれもない様だが…。」

ひょいと山賊は月の足元を覗き込んだ。

「夜伽様は、死んだ赤ん坊を生き返らせた、不思議な力を持つお方。乱暴はおやめください」

自分の衣を割いて、小坊主の傷に押し当てながら、清賢は山賊に強い口調で言った。

「ひゃっ…死んだ赤ん坊を生き返らせた?」

弟分が、恐ろしげに山賊の顔を見た。

「それは。本当か?」

山賊は、それまでとは打って変わって真面目な顔で、清賢に聞いた。

「はい…この目で…確かに」


清賢も山賊をじっと見据えた。月の苦しさが極限まで達し、ぷちぷちと耳元で何かが弾ける様な音が聞こえた。手先が凍える様に冷たくなり、突然何ともいえない恍惚感が月を包み込んだ。

…いい…気持ち。

ふわりと軽くなり、月の意識は身体から抜け落ちた。

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