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夜伽月 よとぎづき 
第6章 蜜蝋
「駄目だ。駄目だ!手紙を侍の家へ持ってけだと?気でも触れてるのか?」

山賊がのこのこと侍の家へと行けば、斬り殺されてもおかしくない。

「その家にはお時さんという方が、働いているの。その方にこの手紙を渡して欲しいの。きっと絹糸を分けてくれるわ」

見張りは、渋々鬼鎧のところへ行き清賢の書いた手紙を見せた。鬼鎧は乱暴にそれをひったくると、読み始めた。

「駄目だ…」

そしてそれをぐしゃりと濁り潰した。

「この場所は秘密だ。後をつけられたりしたら、面倒だ」

鬼鎧にもあっさりと却下されてしまった。

「切れやすいですが、麻紐はどうでしょう?」

清賢が代替え案を出した。

「…やるしか無いわね」

火鉢、蜜蝋、砂糖、蓬、薄荷など準備が整うと前に、小坊主にゆっくりと阿片を吸わせ始めると表情が穏やかになった。

「出血してる箇所は火箸で焼くしかなさそうね。そして後は傷口を縫い合わせて、蜜蝋で作った軟膏を塗る…」

月は自分を落ち着かせる様に、手順を声に出し、震える手で火箸を火鉢から取り出した。

「ここはわたしに…」

清賢は、月からそっと火箸を取り上げた。

「この後は、夜伽様にお任せ致します。では動かぬ様、身体を抑えて下さい」


月が馬乗りになり、小坊主の身体を抑えた。

「では…いきますぞ」

真っ赤に焼けた火箸を傷口に押し付けた。

--- じゅっ。

皮膚の焦げる臭いに、月は思わず顔を背けた。

「ぐぐぐっ」

小坊主は必死に声を押し殺していたが、脂汗が一気に吹き出て着物が汗でみるみる湿っていく。

「和尚!もう良いわっ」

清賢の顔は、火照っており傷口を凝視していた。月は慌てて清賢を止めたが清賢は火箸を押し付けたまま動かなかった。

「和尚さんっ!」

月は慌てて清賢の大きな手をぐっと握った。

「す…すみません」

清賢は、はっと我に返り火箸を床に落とした。


――― カラン。

身内の傷の手当など冷静に出来る筈がない。

「清賢和尚…大丈夫ですか?」

月は傷口に水を掛けながら清賢を気にした。

「ええ。大丈夫です」

しかし、既にいつもの冷静な清賢に戻っており、清賢は淡々と小坊主の傷に使う軟膏の準備を始めていた。


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