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恋いろ神代記~神語の細~
第5章 真雪
 耳の奥でうねる空気の渦。こう──こう──と満ち引きを繰り返すそれは、果たして風の音なのか雪の音なのか、男にはいまだに区別がつかなかった。
 音につられて空を仰ぐと、重たげな雲がいつも通りのさばっている。落ちてくる雪の粒は小さく、灰白の雲の下では黒い塵のように見えた。
 「……」
その塵の降る空の一点を眺めていると、自分の体が天に昇っているような錯覚を起こす。嫌な浮遊感がうわんと胃の辺りに沸き上がって、男は視線を地に戻すと日課となっている雪かきに戻った。
 暦は卯月を示していたが、しんしんと降る雪にやむ気配はない。
(構わない)
別に誰が訪れる訳でもない。主たる巫女は“あの日”から気を病み、日々の進貢すら放棄して自らの家に籠り、またその家も徐々に徐々に人から遠ざかる場所へと移っていった。そして禊である己と童は、ただそれに従うだけ。
 だから自分達はもはや淡島にはいない存在。忘れられた存在。人にも神にも忘れられ、この雪を降らせる神すら、もはやここに雪を降らせていることを忘れているだろう。
 今となっては唯一、仕事に赴く童一人がささやかながら外との繋がりを持ち、日々持ち帰る食料や稼ぎが生活の助けとなっている。
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