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恋いろ神代記~神語の細~
第5章 真雪
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「──澪(みお)様。そのような薄衣で表に出られては、お子様共々お体に障りますよ」
「うん……すぐ戻る。ちょっと空気の入れ替えをするだけ……」
「では、何か温まるものをご用意いたしますね」
「ええ……そうね。……そうして」
禊が笑んでも、主──澪は笑むこともせずに応える。
代わりにふわっと白い息が浮かんで消えて、その柔らかさが今の禊に感じられる澪の温もりだった。赤子も今日は機嫌がいいようで、布の間から小さな手と笑い声が伸びた。禊はそれに再び笑むと、頷く。
巫女の、どこか漠とした喋り方は、この静謐な世界と似ていた。空も刻も無限で、からっぽで。そんなふうに、すべてを諦め、捨ててしまった巫女ではあるけれども……けれど禊は、それが彼女の本質ではないことを知っている。今はもう女として成熟した齢ではあるが、“あの頃”は……人の心の正否にも疎い、人を疑うことを知らない、純朴で、優しい語り口の少女だった。
──そういえば昨日、久しぶりに甘い菓子が手に入った。その頃は満面の笑みでよく摘まんでいた。
主と同じく年を重ね、「もう子供じゃない」とそっぽを向いて言い張る弟分に半分持たせ、もう半分は主に。きっと喜ぶ。たとえ、笑んではくれなくとも。
「うん……すぐ戻る。ちょっと空気の入れ替えをするだけ……」
「では、何か温まるものをご用意いたしますね」
「ええ……そうね。……そうして」
禊が笑んでも、主──澪は笑むこともせずに応える。
代わりにふわっと白い息が浮かんで消えて、その柔らかさが今の禊に感じられる澪の温もりだった。赤子も今日は機嫌がいいようで、布の間から小さな手と笑い声が伸びた。禊はそれに再び笑むと、頷く。
巫女の、どこか漠とした喋り方は、この静謐な世界と似ていた。空も刻も無限で、からっぽで。そんなふうに、すべてを諦め、捨ててしまった巫女ではあるけれども……けれど禊は、それが彼女の本質ではないことを知っている。今はもう女として成熟した齢ではあるが、“あの頃”は……人の心の正否にも疎い、人を疑うことを知らない、純朴で、優しい語り口の少女だった。
──そういえば昨日、久しぶりに甘い菓子が手に入った。その頃は満面の笑みでよく摘まんでいた。
主と同じく年を重ね、「もう子供じゃない」とそっぽを向いて言い張る弟分に半分持たせ、もう半分は主に。きっと喜ぶ。たとえ、笑んではくれなくとも。
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