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恋いろ神代記~神語の細~
第2章 桂楫
 一音──未だ届かぬ遥かなる音を追い、その代わりの音を優沙に預ければ、優沙はこぼさぬように優しく拾ってくれた。
 やがて風に混じりだす笛と琴の音に、鼓や鳴り物など別の音が微かに重なり始める。それは優沙の手の秘密を知る集落の家々から届けられる音で、それが何重にも層を帯びる頃には眼前の種子の花もふわふわ、ふわふわと楽しげに揺れ、冬前の最後の遊びとばかりに残った綿の裳裾をいくつもいくつも月の空に翻していった。
 逆さまに降る雪の花。白にほのかに光を宿し、ちらちらと踊る。
 やがてその一つを宙空にて、指先ですくう神がいることを優沙は知らない。
 けれどもその白銀(しろがね)の神は、小さな綿の種に依る凛とした信仰を確かに得ると、口元に微かな笑みを湛え……長く長く旨そうに、酒を喉にくぐらせる。
 それから満足そうに同じ長さで息を吐くとおもむろに笛を取り、自身はまた誰が聴くでもない芋名月には足りぬ音(ね)を、楼閣の上で静かに奏で始めるのだった。


2020.3.15
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