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恋いろ神代記~神語の細~
第2章 桂楫
 だがそれなら神依でさえ、きっと一度は舞という舞台で同じ挫折を味わうだろう。だけれどそれならそれで、そういう時にだって禊とは違う立場で側にいてあげられる。それは決して、悪いことではないはずだ。
 「……お三方の音は、優沙様の目にはどんな風に映りましたか」
そして琴の音と音の間に聞こえてきた九ノ兄の声にふと空を見上げれば、ちょうど月が正面に渡ってくるところだった。月の動きは、意外にも速い。
「そうねえ──」
一音。
「コロコロした、可愛い鈴かしら。素朴な土鈴に、深い五十鈴(いすず)。それから静かに響(とよ)む、水琴鈴ね」
誰がどれとは問わない。その雰囲気のままに当てはまるのか、或いは逆なのか。
 また、一音。
 すると今度はそれを合図に、眼前の花群れが一度大きく揺れた。まるで意味ありげに、やきもちを焼くように「こっちを見て」と。
 優沙と九ノ兄ははっとそれに向き直ると、きっと間違ってはいないだろうと顔を見合わせ、確認する。まだお帰りになる時分ではなかったはずなのだが、稀な客人の噂を聞き付け馳せ戻ったのだろうか。
 「おかえりなさい──」
再び琴を構え直す優沙に、九ノ兄も横笛を取り出し唇を近付ける。
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