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狂い咲く花
第9章 一、水芭蕉 - 決心
―――身籠る…?誰が?誰の?

何度も同じ言葉が頭の中を回る。
それが何を意味するのか分かっていても認めることが出来ずにいた。

「葉月…父様になれてうれしい?」

葉月の思いとは違い、うれしそうに笑う。
自分が愛されて抱かれたと疑うことを知らない心清らかな麻耶。
この子に『うれしくない』とは言えない。
この子に『あれは一夜限りの間違えだった』とは言えなかった。

「ねぇ…葉月?麻耶の事、愛してる?」

その屈託のない笑顔を見て、今まで色々と悩んで考えて答えがでない底沼にいるように感じがしていた葉月の心が動く。
一夜限りの過ちだと全てを放棄できないと思う自分がいた。
それも幼馴染でかわいがっていた妹みたいな麻耶。
これから先の事を考えると一人にさせておくわけにはいかないと静かに心が決まる。
その答えは簡単なことではない。
手放してしまった美弥への思いが軽いわけでもない。
だけど、この厠にも一人で行けない少女が、身籠った身体で真冬の夜中に自分を頼ってきてくれたことが葉月の気持ちを変えていく。
この無垢で自分を愛してやまない少女を守ってやりたいと、小さな愛情が沸き起こり始めた。

「ああ…愛してるよ。麻耶」

麻耶に向かって『愛している』と伝える。
これは美弥ではなく、間違いなく麻耶に向かって伝えた言葉。
これが自分が出した答え。
自分は幸せにならなくてもいい。
いや、幸せになってはいけない。
世界で一番愛する人を裏切った自分が幸せになることは許されない。
だけど、この麻耶と生まれて来るであろう子供には何も罪もない。
これから先起こるであろう苦難から守ってやりたいと心が決まる。
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