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暁の星と月
第1章 暗闇の中の光

暁は執事の生田に案内され、大食堂のテーブルの席に着いた。
美しい装飾のシャンデリア、テーブルは真っ白なリネンで覆われ、シミひとつない。
壁には西洋名画が飾られているがもちろん暁には何ひとつ分からない。
恐る恐る座った椅子は大きくどっしりとしていた。
生田が礼也に伝える。
「…暁様が召し上がりやすいお食事をご用意いたしました。…宜しければ礼也様もご一緒に…」
暁一人では気兼ねして箸が進みにくかろうと配慮したらしい。
礼也は自分と暁の前に置かれた膳を見て、満足げに頷く。
「ありがとう、生田。さあ、暁。たくさん食べなさい」
暁は目の前の膳の中身を見て、眼を見張る。
…ぴかぴかに輝く白米のお握りが3つ。
上等な海苔が綺麗に巻かれている。
漬け物は蕪ときゅうりと人参。
美味しそうな脂が乗った焼きたての紅鮭の切り身、春菊の胡麻和え、ふんわりとした出汁巻き卵、けんちん汁…。そして香り高い煎茶。
礼也が普段は食べないような庶民的な和食だった。
生田は市井育ちの暁が怖じ気づかずに食べられるよう心を配ったのだ。
暁は母が亡くなってからは殆ど何も食べていなかった。
昨日は干からびた干し芋を齧り、今日は水すら飲んでいない。
空腹は限界に来ていたのだ。
…震える手で、お握りを掴む。
一口、口に入れる。
甘く香り高い白米の味が、口いっぱいに広がる。
…美味しい…。
白米など何年ぶりだろうか…。
暁は無意識に咀嚼する。
箸を持つ手も覚束なく、出し巻き卵を挟み口に入れる。
上品な出汁とふんわり優しい玉子の味が舌の上で蕩けた。
…こんな美味しいものを食べたのは、生まれて初めてだ…。
…玉子…
亡くなった母は料理が下手だった。
だが貧しい中でも僅かな給金が入ると玉子を買って、暁だけに卵焼きを焼いてくれた。
調味料など塩しか入っていない卵焼きはそう美味しくもないのだろうが、暁にはこの上ないご馳走に思えた。
「おいしい!」
と喜ぶと母は嬉しそうに笑った。
母の笑顔が嬉しくて暁は卵焼きを半分、母に勧める。
「暁が全部お食べ。育ち盛りだもの」
と首を振る。
だから暁は箸に一口分摘んだ卵焼きを母の口に運んでやるのだ。
すると母は素直に口を開け
「ありがとう」
と笑った。
出し巻き卵の上にぽたぽたと涙が落ちる。
…母さんにも食べさせてあげたかった…。
「…母さん…」
礼也がはっと暁を見つめる。
美しい装飾のシャンデリア、テーブルは真っ白なリネンで覆われ、シミひとつない。
壁には西洋名画が飾られているがもちろん暁には何ひとつ分からない。
恐る恐る座った椅子は大きくどっしりとしていた。
生田が礼也に伝える。
「…暁様が召し上がりやすいお食事をご用意いたしました。…宜しければ礼也様もご一緒に…」
暁一人では気兼ねして箸が進みにくかろうと配慮したらしい。
礼也は自分と暁の前に置かれた膳を見て、満足げに頷く。
「ありがとう、生田。さあ、暁。たくさん食べなさい」
暁は目の前の膳の中身を見て、眼を見張る。
…ぴかぴかに輝く白米のお握りが3つ。
上等な海苔が綺麗に巻かれている。
漬け物は蕪ときゅうりと人参。
美味しそうな脂が乗った焼きたての紅鮭の切り身、春菊の胡麻和え、ふんわりとした出汁巻き卵、けんちん汁…。そして香り高い煎茶。
礼也が普段は食べないような庶民的な和食だった。
生田は市井育ちの暁が怖じ気づかずに食べられるよう心を配ったのだ。
暁は母が亡くなってからは殆ど何も食べていなかった。
昨日は干からびた干し芋を齧り、今日は水すら飲んでいない。
空腹は限界に来ていたのだ。
…震える手で、お握りを掴む。
一口、口に入れる。
甘く香り高い白米の味が、口いっぱいに広がる。
…美味しい…。
白米など何年ぶりだろうか…。
暁は無意識に咀嚼する。
箸を持つ手も覚束なく、出し巻き卵を挟み口に入れる。
上品な出汁とふんわり優しい玉子の味が舌の上で蕩けた。
…こんな美味しいものを食べたのは、生まれて初めてだ…。
…玉子…
亡くなった母は料理が下手だった。
だが貧しい中でも僅かな給金が入ると玉子を買って、暁だけに卵焼きを焼いてくれた。
調味料など塩しか入っていない卵焼きはそう美味しくもないのだろうが、暁にはこの上ないご馳走に思えた。
「おいしい!」
と喜ぶと母は嬉しそうに笑った。
母の笑顔が嬉しくて暁は卵焼きを半分、母に勧める。
「暁が全部お食べ。育ち盛りだもの」
と首を振る。
だから暁は箸に一口分摘んだ卵焼きを母の口に運んでやるのだ。
すると母は素直に口を開け
「ありがとう」
と笑った。
出し巻き卵の上にぽたぽたと涙が落ちる。
…母さんにも食べさせてあげたかった…。
「…母さん…」
礼也がはっと暁を見つめる。

