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暁の星と月
第3章 暁の天の河
「…春馬さん…僕は…」
…まだ兄さんが好きです…そんな僕でもいいのですか?
…と、尋ねようとした暁を大紋は先手を打って引き寄せる。

「…ねえ、暁…このまま僕と一緒にどこかに行こう…」
「…え?」
暁は男の言っている意味が分からずに、眉を寄せた。
大紋は暁の頬から顎を優しく撫でる。
「…僕と、ここではないどこかに行こう…二人で…誰にも邪魔されない世界へ…そして、ずっと二人だけで暮らすんだ…」
…美しく理知的な貌が哀しみのような色を湛えながら、微笑んでいた。

…そんなこと、出来るはずがなかった。
大紋は法曹界のエリート弁護士で、資産家の長男だ。
代々続く名門の家を継がなくてはならない。
…つまりは、いずれは然るべき名家から妻を迎え、後継ぎを作る…。
それが彼の責務なのだ。
暁は礼也に引き取られ、貴族社会に身を置くようになり、上流階級の人々の結婚がどんなに重要なことなのか、理解するようになった。
そして、自分が思い浮かべた事実が、そう遠くない大紋の将来の青写真なのだと分かった瞬間、暁の胸は鋭く痛んだ。

…一方、自分も…
出身は妾腹ではあるが、兄の礼也に可愛がってもらい、名門私学に通い、縣男爵家の息子として貴族社会に認められつつある。
礼也は暁を非の打ち所がないのない貴公子に育てることに並々ならぬ情熱を傾けている。
暁と二人で縣財閥を盛り立ててゆきたいと考えているのだ。
異母兄弟の自分を心から大切にして、可愛がってくれる礼也…。
その礼也を裏切るような真似を出来るはずがなかった。

しかし、暁は大紋の眼を見つめ返して…静かに答えた。
「…いいですよ…」
大紋が眼を見張る。
「…春馬さんと一緒なら、いいです…どこへでも行きます…」
…連れて行って…
ここではないどこかに…
…礼也がいない世界は、息が出来ないほどに苦しいだろうけれど…
…連れて行って…
貴方となら耐えられるから…

大紋が息を呑み、瞳の奥に滾る情動を浮かべる。
…大紋の手が、暁の手を強く握りしめる。
…引き寄せられ…
暁は、次の言葉を待った。

…だが…
大紋は、次の瞬間ふっと得もいわれぬ、切ないような明るいような不思議な笑みを浮かべ、暁を柔らかく抱擁した。

「君は優しいな。僕の戯言に付き合ってくれて…」
「春馬さん…!」
優しく諭すように言う。
「…冗談だよ。…揶揄っただけだ」









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