この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
暁の星と月
第6章 その花のもとにて
「すみません…つい…お許しください…」
普段の冷静な彼からは想像できないほど、慌てふためき後退る。
そんな彼につられ、暁までどぎまぎしてしまう。
「…う、ううん…大丈夫だよ…」
…そして、そんなぎこちない自分達が可笑しくて、つい吹き出してしまった。
「あはは…なんだか…僕たち…可笑しいよね…フフフ…」
最初は、屈託無く笑う暁を驚いたように見つめていたが、暫く笑いが止まらない暁に月城まで、吹き出してしまう。
ひとしきり、二人で笑い合うと月城は穏やかに暁を見つめる。
「…暁様はお笑いになると本当にお可愛らしいですね…」
「…え?」
暁は驚いて目を見開く。
「…いつも暁様が笑顔でいて下さることを、祈っております。
私には祈ることしか出来ませんが…」
暁は首を振り、微笑む。
「…充分だ…」
月城の心の中が白湯を飲んだときのように暖かくなるような微笑みだった。
ふと思い出したように月城がジャケットの胸ポケットから白いハンカチに包まれたカフスを差し出す。
…白蝶石と真珠のカフスだ。
「…温室に落ちていました」
思い当たったのか、暁の白磁のような頬が一瞬で桜色に染まる。
「…あ、ありがとう…」
慌てて受け取ろうとして落としそうになり、すかさず月城が下から暁の手を握り締める。
益々、暁の頬が艶めくように染まる。
その美しいさまに、月城は見惚れた。
暁はカフスをジャケットのポケットに仕舞うと
「…それじゃ…また…」
と無愛想に呟くと、月城に背を向けた。
月城は優雅に一礼する。
…行きかけて、暁は傍らのライラックの木に目を留める。
今が盛りのライラックの花が甘い香りを漂わせながら可憐なムーヴ色の花房を可憐に咲かせていた。
…北白川家の庭園に咲いていたっけ…。
白く細い指先が花をなぞり、枝をそっと手折る。
薄紫の小さな房から花弁が儚げに散る。
「…月城…」
月城が振り返る。
暁は月城の胸ポケットにライラックの花を差し入れた。
「…ライラックの花言葉は…」
と、言いかけて…謎めいた夜の花のように微笑った。
「…後で調べてくれ…」
そうして、暁はしなやかにその身を翻し、丘を降りていった。
月城はライラックの小枝を手にすると、暁の後ろ姿を何時までも見送った。
…ライラックの花言葉は「甘い誘惑」であったことを、彼はのちに知るのであった。
普段の冷静な彼からは想像できないほど、慌てふためき後退る。
そんな彼につられ、暁までどぎまぎしてしまう。
「…う、ううん…大丈夫だよ…」
…そして、そんなぎこちない自分達が可笑しくて、つい吹き出してしまった。
「あはは…なんだか…僕たち…可笑しいよね…フフフ…」
最初は、屈託無く笑う暁を驚いたように見つめていたが、暫く笑いが止まらない暁に月城まで、吹き出してしまう。
ひとしきり、二人で笑い合うと月城は穏やかに暁を見つめる。
「…暁様はお笑いになると本当にお可愛らしいですね…」
「…え?」
暁は驚いて目を見開く。
「…いつも暁様が笑顔でいて下さることを、祈っております。
私には祈ることしか出来ませんが…」
暁は首を振り、微笑む。
「…充分だ…」
月城の心の中が白湯を飲んだときのように暖かくなるような微笑みだった。
ふと思い出したように月城がジャケットの胸ポケットから白いハンカチに包まれたカフスを差し出す。
…白蝶石と真珠のカフスだ。
「…温室に落ちていました」
思い当たったのか、暁の白磁のような頬が一瞬で桜色に染まる。
「…あ、ありがとう…」
慌てて受け取ろうとして落としそうになり、すかさず月城が下から暁の手を握り締める。
益々、暁の頬が艶めくように染まる。
その美しいさまに、月城は見惚れた。
暁はカフスをジャケットのポケットに仕舞うと
「…それじゃ…また…」
と無愛想に呟くと、月城に背を向けた。
月城は優雅に一礼する。
…行きかけて、暁は傍らのライラックの木に目を留める。
今が盛りのライラックの花が甘い香りを漂わせながら可憐なムーヴ色の花房を可憐に咲かせていた。
…北白川家の庭園に咲いていたっけ…。
白く細い指先が花をなぞり、枝をそっと手折る。
薄紫の小さな房から花弁が儚げに散る。
「…月城…」
月城が振り返る。
暁は月城の胸ポケットにライラックの花を差し入れた。
「…ライラックの花言葉は…」
と、言いかけて…謎めいた夜の花のように微笑った。
「…後で調べてくれ…」
そうして、暁はしなやかにその身を翻し、丘を降りていった。
月城はライラックの小枝を手にすると、暁の後ろ姿を何時までも見送った。
…ライラックの花言葉は「甘い誘惑」であったことを、彼はのちに知るのであった。