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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
「僕もだ。縣の屋敷を見た時は、絵本でしか見たことがないお伽話のお城に来たのかと思った…」

暁は月城を改めて見つめる。
「…僕たちは、似たような境遇で育ったんだな…」
「…そうですね…」
月城が静かに微笑む。
月城の微笑は温かく、暁の胸に染み渡った。

「…ビストロが開店したら、お知らせ下さい。ぜひ、伺いたいです」
暁の表情がぱっと明るくなる。
「本当に?約束だよ?」
月城は包み込むように微笑んだ。
暁はまだ何か約束が欲しくて、自分の白く細い小指を差し出す。
「…指切り、して?」
子供っぽい仕草に笑われるかと思ったが、彼は少し驚いたように眼鏡の奥の瞳を見開き、頷くと、自分の美しい造形の小指を暁のそれと絡ませる。
ひんやり冷たい小指が、強く暁の小指に絡まる。
心臓の奥が甘く疼いた。
「…約束です」
眼鏡の奥の美しい瞳が笑っていた。
「…うん…ありがとう…」
なんだか照れくさくて、俯いてしまった暁に、月城は口を開いた。
「私も一つ、お約束していただきたいのです」
「なに?」
見上げた眼差しに、月城の端整な貌が近くて驚く。
「…これから暁様が何かに悩まれたら…もしそれが縣様にもご相談できないことでしたら…私にお話していただきたいのです」
「…月城…」
「…一人で苦しまないで下さい。…いつでも、私をお訪ね下さい…」

…14歳の時、初めて北白川邸に招かれ、貴族の子弟達に馴染めず、バルコニーに身を潜めていた。
…あの時も、月城はさり気なく手を差し伸べてくれた…。
あの時のなんとも言えない安堵感に、再び包まれる。
暁は小さく頷く。
「…ありがとう…月城…」
…漆黒の闇のようなしっとりとした黒い瞳が月城を見つめ返す…
月城は惹き寄せられるようにその繊細な美しい貌に手を伸ばしかけ…しかし直ぐに、止めた。
彼の貌に苦い後悔の色が浮かぶ。
暁が不審に思い、口を開きかけた時…

丘の下で、馬の嘶きが聞こえた。
暁は素早く立ち上がり、見下ろす。
「…アルフレッドだ!…ジークフリートもいる!」
月城は静かに微笑むと、しなやかに立ち上がり器用に指笛を鳴らした。
二頭の駿馬は丘の上を見上げ、嬉しそうに嘶きながらそれぞれの主人の元へと駆け出す。
暁は月城と目を見合わせ、朗らかに笑った。


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