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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
…相手の幸せを願える日…か…。
そんな日が来るのだろうか…。
今はまだ、そんな風には考えられない。
大紋が暁に残していったものは、余りに多すぎた。
…恋情も、憧憬も、肉欲も…全てがないまぜになり、暁を苦しめる。
…分けても肉欲は…
大紋が、時間をかけて開花させたこの淫らな身体は、夜毎に熱く疼き、男を求める。
封じ込めようとしても、忘れようとしても、男の逞しい身体の重さや、熱い灼熱の楔を思い出す…。
暁ははっと我に帰る。
…浅ましい…なんてことを考えるんだ。
月城の前で…。
…月城の細身なのに逞しい硬い胸板を思い出す。
暁の喉元に触れた、ひんやり冷たい指も…。
暁は背筋を震わせ、そんな自分が疎ましく無意識に首を振る。
そんな暁を知ってか知らずか月城は、気持ちを切り替えさせるように明るい口調で尋ねた。
「暁様は今、どのようなお仕事をされているのですか?」
暁は気を取り直し、少し照れたように答える。
「…縣商会はレストラン事業を展開しているんだけど、新しくビストロを開店させるところなんだ」
「…ビストロ?…西洋の気軽な食堂のような店ですよね」
博識な月城は知識が広い。
暁は嬉しくなり、頷く。
「…ホテルに入っているような高級レストランはもういくつか展開しているんだけど、いわゆる庶民の人が気楽に入れるような安い洋食屋を開きたくて…。
僕が入社してから初めて提案して、それが通った企画なんだ。安くて、でも美味しくて、西洋の食文化に触れられるような…そんな店を開きたくてね」
「…それは、素晴らしいですね」
月城は目を細める。
「…僕は兄さんに引き取られるまで、本当に貧しくて…食堂に入ったこともなかった。…いつも、キラキラした洋食屋の綺麗な窓や、看板を眺めて…どんな料理が出てくるんだろう…て、想像の翼を広げていた…いじましいだろう?」
恥ずかしそうに笑う暁に、月城は真顔で首を振る。
「よく分かります。…私もずっと貧しい田舎町で育ちましたから。…私が生まれ育った町は、北陸の本当に寂れた小さな漁村で…洋食屋の存在すら知りませんでしたけれど…」
「…そうだったんだ…知らなかった…」
月城の生い立ちを初めて聞き、暁は驚く。
「…旦那様に給費生として選んでいただき、東京のお屋敷に連れてこられた時は、外国に来たかと思いました」
懐かしそうに笑う月城に、つられて笑う。
そんな日が来るのだろうか…。
今はまだ、そんな風には考えられない。
大紋が暁に残していったものは、余りに多すぎた。
…恋情も、憧憬も、肉欲も…全てがないまぜになり、暁を苦しめる。
…分けても肉欲は…
大紋が、時間をかけて開花させたこの淫らな身体は、夜毎に熱く疼き、男を求める。
封じ込めようとしても、忘れようとしても、男の逞しい身体の重さや、熱い灼熱の楔を思い出す…。
暁ははっと我に帰る。
…浅ましい…なんてことを考えるんだ。
月城の前で…。
…月城の細身なのに逞しい硬い胸板を思い出す。
暁の喉元に触れた、ひんやり冷たい指も…。
暁は背筋を震わせ、そんな自分が疎ましく無意識に首を振る。
そんな暁を知ってか知らずか月城は、気持ちを切り替えさせるように明るい口調で尋ねた。
「暁様は今、どのようなお仕事をされているのですか?」
暁は気を取り直し、少し照れたように答える。
「…縣商会はレストラン事業を展開しているんだけど、新しくビストロを開店させるところなんだ」
「…ビストロ?…西洋の気軽な食堂のような店ですよね」
博識な月城は知識が広い。
暁は嬉しくなり、頷く。
「…ホテルに入っているような高級レストランはもういくつか展開しているんだけど、いわゆる庶民の人が気楽に入れるような安い洋食屋を開きたくて…。
僕が入社してから初めて提案して、それが通った企画なんだ。安くて、でも美味しくて、西洋の食文化に触れられるような…そんな店を開きたくてね」
「…それは、素晴らしいですね」
月城は目を細める。
「…僕は兄さんに引き取られるまで、本当に貧しくて…食堂に入ったこともなかった。…いつも、キラキラした洋食屋の綺麗な窓や、看板を眺めて…どんな料理が出てくるんだろう…て、想像の翼を広げていた…いじましいだろう?」
恥ずかしそうに笑う暁に、月城は真顔で首を振る。
「よく分かります。…私もずっと貧しい田舎町で育ちましたから。…私が生まれ育った町は、北陸の本当に寂れた小さな漁村で…洋食屋の存在すら知りませんでしたけれど…」
「…そうだったんだ…知らなかった…」
月城の生い立ちを初めて聞き、暁は驚く。
「…旦那様に給費生として選んでいただき、東京のお屋敷に連れてこられた時は、外国に来たかと思いました」
懐かしそうに笑う月城に、つられて笑う。