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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
大紋はソフト帽を取りながら、ややぎこちない笑顔で笑った。
暁はその笑顔に釘付けになる。
…すらりと高い堂々とした体躯、仕立ての良い洒落たスーツ、きちんと撫でつけられた髪、理知的な瞳、美しい像の鼻筋、やや肉惑的な唇…
全てが以前のままの大紋だ。
硬い表情のまま立ち竦む暁に、大紋は気遣うように近づく。
「…来ようか迷ったんだけど、暁が初めて手掛けた店だから、どうしても初日にお祝いを言いたくてね…」
…優しい物言いも以前のままだ。
暁は漸く、強張る表情のまま少しだけ笑った。
「…わざわざ、ありがとうございます…」
大紋は手にした美しくリボンが掛けられた胡蝶蘭の鉢を手渡す。
「…おめでとう、暁…。大盛況だ。…よく頑張った…」
…聞きなれた優しい、低い声…
近づくと、大紋のいつものフレグランスが薫った。
暁の胸はずきりと痛む。
胡蝶蘭を受け取りながら、唇を噛み締める。
…この胸に、幾度抱かれたことだろう…
何度も激しく引き寄せられ、唇を奪われ、抱きすくめられた…。
…もうそれは過去の話なのだ…。
暁は必死で笑顔を作る。
「ありがとうございます。…こんなにご立派なお花を…」
受け取る時に、大紋の指と暁の指が触れ合う。
思わず、引っ込めようとした暁に、大紋は上から手を握りしめる。
はっと目を上げる。
大紋の熱い眼差しにぶつかり、暁は身体を強張らせる。
「…少し、痩せた?」
「…そうですか…?」
「…身体は…大丈夫?」
暁は小さく頷く。
「…ずっと…気がかりだった…」
密やかな低い声…
…耳元で幾度も囁かれた美しい声…
…愛している…暁…
…だめだ…
考えてはいけない…
暁は敢えて明るい声で、切り出す。
「今、お席を作ります。…是非、自慢のコース料理を召し上がっていかれてください」
暁は大紋を奥の席に促す。
厨房のカウンター前を通りながら、大紋が驚いたように中を見つめる。
月城が、料理の手を休めて、二人の様子を静かに見つめていた。
大紋と目が合うと丁寧に目礼し、再び料理の作業に入る。
「…北白川家の執事だな…どうしたんだ?」
暁は微笑む。
「…月城さんはお祝いに来てくださったのですが、丁度うちの料理長が腰を痛めて厨房に立てなくなったんです。それで急遽ピンチヒッターに…。本当に助かりました…」
料理を作る月城を慕わしげな眼差しで見る暁を、大紋はじっと見つめた。
暁はその笑顔に釘付けになる。
…すらりと高い堂々とした体躯、仕立ての良い洒落たスーツ、きちんと撫でつけられた髪、理知的な瞳、美しい像の鼻筋、やや肉惑的な唇…
全てが以前のままの大紋だ。
硬い表情のまま立ち竦む暁に、大紋は気遣うように近づく。
「…来ようか迷ったんだけど、暁が初めて手掛けた店だから、どうしても初日にお祝いを言いたくてね…」
…優しい物言いも以前のままだ。
暁は漸く、強張る表情のまま少しだけ笑った。
「…わざわざ、ありがとうございます…」
大紋は手にした美しくリボンが掛けられた胡蝶蘭の鉢を手渡す。
「…おめでとう、暁…。大盛況だ。…よく頑張った…」
…聞きなれた優しい、低い声…
近づくと、大紋のいつものフレグランスが薫った。
暁の胸はずきりと痛む。
胡蝶蘭を受け取りながら、唇を噛み締める。
…この胸に、幾度抱かれたことだろう…
何度も激しく引き寄せられ、唇を奪われ、抱きすくめられた…。
…もうそれは過去の話なのだ…。
暁は必死で笑顔を作る。
「ありがとうございます。…こんなにご立派なお花を…」
受け取る時に、大紋の指と暁の指が触れ合う。
思わず、引っ込めようとした暁に、大紋は上から手を握りしめる。
はっと目を上げる。
大紋の熱い眼差しにぶつかり、暁は身体を強張らせる。
「…少し、痩せた?」
「…そうですか…?」
「…身体は…大丈夫?」
暁は小さく頷く。
「…ずっと…気がかりだった…」
密やかな低い声…
…耳元で幾度も囁かれた美しい声…
…愛している…暁…
…だめだ…
考えてはいけない…
暁は敢えて明るい声で、切り出す。
「今、お席を作ります。…是非、自慢のコース料理を召し上がっていかれてください」
暁は大紋を奥の席に促す。
厨房のカウンター前を通りながら、大紋が驚いたように中を見つめる。
月城が、料理の手を休めて、二人の様子を静かに見つめていた。
大紋と目が合うと丁寧に目礼し、再び料理の作業に入る。
「…北白川家の執事だな…どうしたんだ?」
暁は微笑む。
「…月城さんはお祝いに来てくださったのですが、丁度うちの料理長が腰を痛めて厨房に立てなくなったんです。それで急遽ピンチヒッターに…。本当に助かりました…」
料理を作る月城を慕わしげな眼差しで見る暁を、大紋はじっと見つめた。