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暁の星と月
第8章 月光小夜曲
暁が客間に入ると百合子は椅子に座っていたが、立ち上がり、暁に深々と頭を下げた。
「…この度は、私のことで縣様にご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
暁は慌てて手で制する。
「そんな…頭を上げてください。百合子さんは悪くはないのですから…」
百合子は美しい貌を上げ、哀しみを湛えた眼差しで、しかし凛とした口調で答えた。
「…いいえ。…ずっと考えていたのです。…やはりこんなことで、皆様にご迷惑をかけて…ましてや将来のある忍さんを巻き込むようなことはしてはならないと…」
「…百合子さん…」
百合子は俯いた。
翳りのある美貌はまるで古典的な絵画のような美しさだった。
「…司は…もしかしたら…何もかも無くした私の元で育つより、財力のある風間の本家で育てられた方が幸せなのかも知れません。…風間のご両親は司を可愛がって下さいます。…私などいなくてもきっとすくすく育つでしょう。…私が実家に戻り再婚することで、波風が立たないのならば…」
「それはいけません!」
物静かな印象を与えていた美しい青年が急に叫び出したので、百合子は驚き息を呑んだ。
「…司くんを…子供を手放してはなりません!絶対に!」
「…縣様…」
はっと我に帰った暁が、一息吐く。
そして、昔を思い出すようにゆっくりと語り出した。
「…僕は…この家の正式な子供ではありません。…母はいわゆる愛人で、僕は庶子でした。
…14歳で兄に引き取られるまで、母一人子一人の貧しい家に育ちました。…母は百合子さんのように良家の出身でもなく、教養もなく…愚かな母でした。
…けれど、僕のことを必死で育ててくれました。…時には人には言えないような仕事をしてまでも…。
身体を張って育ててくれたお陰で…僕は今こうしてここにいられます。母には心から感謝しています」
「…お母様は今…」
「亡くなりました」
百合子の優し気な瞳が哀しみの色を帯びる。
「…だから、どんなことがあっても、子供の手を離してはなりません。司くんのお母様は百合子さんしかいないのです」
百合子ははらはらと涙を流しながら、頷く。
「…でも…忍さんは…。…私と司の為に忍さんの人生を台無しにはしたくはないのです」
暁は、優しく尋ねる。
「…百合子さんは、忍さんを愛していますか?」
百合子は瞳を見開き、苦し気に貌を背けた。
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