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暁の星と月
第8章 月光小夜曲
過去の記憶を紐解くように、百合子は語り出した。
「…忍さんは…私が風間の家に嫁いだ時からずっと私の力になってくださいました。…忍さんはまだ中学生で…思春期の難しい時期でしたけれど、私には心を許してくれて…可愛い弟のような存在でした。
…なかなか子供に恵まれなかった私は風間の家でも肩身が狭かったのですが、忍さんは何くれとなく私を庇ってくださいました。
…漸く子供を身籠り…喜んだのもつかの間、主人は司の顔を見ることもなく列車事故で亡くなりました。
…哀しみに暮れる私をずっと支えてくれたのが忍さんでした」
…忍さんらしいな…と暁は思った。
風間は優しい人だ。
人が悲しんだり、傷ついているとさりげなく寄り添い、励ましてくれる…。
…きっと、百合子さんは忍さんの初恋だったのだろう。
初恋の人をずっと陰日向なく庇い、力になってきた風間…。
そんな風間を…百合子は…どう思ってきたのだろうか…。
「…百合子さんは、忍さんをどう思っていらっしゃるのですか?」
百合子は暫く押し黙っていたが、やがて決心したかのようにその切れ長の美しい瞳をひたと暁に当てると告白した。
「…愛しております。…主人を亡くしてからはずっと…忍さんは私の心の支えでした」
「…では…」
暁の言葉を遮るように首を振る。
「…でも、だからこそ、忍さんの将来を奪うようなことは出来ないのです。…あの人は将来のある身…。
年上で、子供もいる私が…どうして愛していますと言えるでしょうか…」
暁ははっと胸が突かれた。
…自分と同じだ…。
僕もそう思って、春馬さんを突き放した…。
…だけど…。
「…百合子さん。僕も以前、百合子さんと同じことを思い、愛する人から身を引きました」
静かに口を開いた暁を百合子は見上げる。
「…自分の為に将来を犠牲にして欲しくない…。
そう思い、身を引き…別れました。
…けれど…僕は時々、なぜその人の手を取らなかったのだろうかと後悔することがあるのです…」
「…縣様…」
…大紋は全てを捨てると言ってくれたのに…
自分は彼の胸に飛び込むことができなかった…
…そして、彼への愛惜ばかりが降り積もる…。
「…百合子さんには僕のような思いをして欲しくないのです。…過ぎた日はもう戻りません。…忍さんの手を決して離さないでいてください…」
「…縣様…」
百合子の瞳から感謝の涙が溢れだした。
「…忍さんは…私が風間の家に嫁いだ時からずっと私の力になってくださいました。…忍さんはまだ中学生で…思春期の難しい時期でしたけれど、私には心を許してくれて…可愛い弟のような存在でした。
…なかなか子供に恵まれなかった私は風間の家でも肩身が狭かったのですが、忍さんは何くれとなく私を庇ってくださいました。
…漸く子供を身籠り…喜んだのもつかの間、主人は司の顔を見ることもなく列車事故で亡くなりました。
…哀しみに暮れる私をずっと支えてくれたのが忍さんでした」
…忍さんらしいな…と暁は思った。
風間は優しい人だ。
人が悲しんだり、傷ついているとさりげなく寄り添い、励ましてくれる…。
…きっと、百合子さんは忍さんの初恋だったのだろう。
初恋の人をずっと陰日向なく庇い、力になってきた風間…。
そんな風間を…百合子は…どう思ってきたのだろうか…。
「…百合子さんは、忍さんをどう思っていらっしゃるのですか?」
百合子は暫く押し黙っていたが、やがて決心したかのようにその切れ長の美しい瞳をひたと暁に当てると告白した。
「…愛しております。…主人を亡くしてからはずっと…忍さんは私の心の支えでした」
「…では…」
暁の言葉を遮るように首を振る。
「…でも、だからこそ、忍さんの将来を奪うようなことは出来ないのです。…あの人は将来のある身…。
年上で、子供もいる私が…どうして愛していますと言えるでしょうか…」
暁ははっと胸が突かれた。
…自分と同じだ…。
僕もそう思って、春馬さんを突き放した…。
…だけど…。
「…百合子さん。僕も以前、百合子さんと同じことを思い、愛する人から身を引きました」
静かに口を開いた暁を百合子は見上げる。
「…自分の為に将来を犠牲にして欲しくない…。
そう思い、身を引き…別れました。
…けれど…僕は時々、なぜその人の手を取らなかったのだろうかと後悔することがあるのです…」
「…縣様…」
…大紋は全てを捨てると言ってくれたのに…
自分は彼の胸に飛び込むことができなかった…
…そして、彼への愛惜ばかりが降り積もる…。
「…百合子さんには僕のような思いをして欲しくないのです。…過ぎた日はもう戻りません。…忍さんの手を決して離さないでいてください…」
「…縣様…」
百合子の瞳から感謝の涙が溢れだした。