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暁の星と月
第9章 ここではない何処かへ
礼也は飯塚の町が…炭鉱の町が大好きだ。
口癖は礼也の尊敬する祖父のことだった。
「お祖父様は裸一貫、炭鉱業を興されて縣財閥の礎を築かれたのだよ。…お祖父様は自分と同じ境遇の従業員をとても大切にしておられた。…従業員を幸せにすることが、縣鉱業を大きくすることだと信じて疑わなかった。…私もそう思う。…私は飯塚の町をもっともっと栄えさせて、若者たちを大きく成長させたい。九州一栄えた豊かな町にしたい。その為にも、従業員をもっと大切にしなくては」
礼也は時間が出来ると飯塚に赴き、若者たちを慰労し、時には車座になりながら、安い焼酎を酌み交わし、語りあった。
それゆえに礼也は荒くれた炭鉱夫達にも、絶大な人気があった。
「縣の御曹司はちいっとも気取っとらんと、儂等と一緒に酒を呑みよる!ええ人じゃあ!」
縣鉱業では、他ではこっそりと行われている少年達に労働させることを絶対に許さなかった。
尋常小学校は必ず卒業させること。
これを固く守らせていた。
飯塚の小学校に多額の寄付を毎年しているのも礼也だった。
「飯塚の子ども達は縣鉱業の…いや、日本の財産だからな」
優しく崇高な意思とリーダーシップを兼ね備えた礼也は飯塚の炭鉱では神様のように崇め奉られていたのだ。
…兄さん!…兄さんの大切にしている従業員が…!
…兄さんはいない。…すぐにお帰りいただく訳にはいかない。
お父様はボストンだし、最近心臓の手術を受けられたばかりだから、ご心配をかける訳にはいかない。
…僕が…僕が…しっかりしなくては…!
暁は唇を引き結び、決意をしたかのような強い眼差しで、現場監督を見つめた。
「…まず、怪我をされている方々のところに連れて行ってください。…医師や看護師は足りていますか?…それから被害状況をまとめた一覧表を僕に下さい」
まるで絵巻物から抜け出して来たような美しい青年がきびきびと指示を出したので現場監督は驚きつつも、しゃんと姿勢を直すと頷き、暁を別室へと案内を始めた。
口癖は礼也の尊敬する祖父のことだった。
「お祖父様は裸一貫、炭鉱業を興されて縣財閥の礎を築かれたのだよ。…お祖父様は自分と同じ境遇の従業員をとても大切にしておられた。…従業員を幸せにすることが、縣鉱業を大きくすることだと信じて疑わなかった。…私もそう思う。…私は飯塚の町をもっともっと栄えさせて、若者たちを大きく成長させたい。九州一栄えた豊かな町にしたい。その為にも、従業員をもっと大切にしなくては」
礼也は時間が出来ると飯塚に赴き、若者たちを慰労し、時には車座になりながら、安い焼酎を酌み交わし、語りあった。
それゆえに礼也は荒くれた炭鉱夫達にも、絶大な人気があった。
「縣の御曹司はちいっとも気取っとらんと、儂等と一緒に酒を呑みよる!ええ人じゃあ!」
縣鉱業では、他ではこっそりと行われている少年達に労働させることを絶対に許さなかった。
尋常小学校は必ず卒業させること。
これを固く守らせていた。
飯塚の小学校に多額の寄付を毎年しているのも礼也だった。
「飯塚の子ども達は縣鉱業の…いや、日本の財産だからな」
優しく崇高な意思とリーダーシップを兼ね備えた礼也は飯塚の炭鉱では神様のように崇め奉られていたのだ。
…兄さん!…兄さんの大切にしている従業員が…!
…兄さんはいない。…すぐにお帰りいただく訳にはいかない。
お父様はボストンだし、最近心臓の手術を受けられたばかりだから、ご心配をかける訳にはいかない。
…僕が…僕が…しっかりしなくては…!
暁は唇を引き結び、決意をしたかのような強い眼差しで、現場監督を見つめた。
「…まず、怪我をされている方々のところに連れて行ってください。…医師や看護師は足りていますか?…それから被害状況をまとめた一覧表を僕に下さい」
まるで絵巻物から抜け出して来たような美しい青年がきびきびと指示を出したので現場監督は驚きつつも、しゃんと姿勢を直すと頷き、暁を別室へと案内を始めた。