この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
暁の星と月
第9章 ここではない何処かへ
…こんな殺伐とした事務所の一角にいても、彼は奇跡のように美しかった。
蒼ざめた白皙の美貌…
漆黒の闇のような潤んだ瞳…
熟れた果実のような紅い唇…
甘く切ない異国の花のような薫り…

…僕が、唯一愛した青年だ。
本当は彼を今すぐに奪い、連れ去り、二人だけの世界へ逃避行したい。
…だが、やはりそれは見果てぬ夢なのだ…。
彼は大紋が苦しむことを気に病んでいたが、暁も…恐らくは礼也のことを思い、苦しむに違いない。
…彼を救い出し、大切に育てあげてくれた…彼にとって神のような存在の兄を…
暁は決して裏切ることはできないのだから…。

…だから、大紋は静かに立ち上がり、出会った頃の少年の暁にするように、慈愛に満ちた仕草で髪を撫でた。
「…分かった…。…君は正しい…。
僕たちの道はもう、交わらないところまで来てしまったのだ…。
…だが、これだけは忘れないでくれ。…僕が愛する人は君だけだ。…僕はこれからも妻を大切にし、生まれてくる子供も可愛がるだろう。
…恐らく、穏やかで幸せな人生を歩むに違いない。
人は僕を愛妻家で、子煩悩な父親だと思うかも知れない…。
もちろんそれは嘘ではない。
…だが、僕がいつか生涯を終える時…思い出すのは君のことだ。…永遠に…暁だけを愛している…。それは誰にも止められない…」

「…春馬さん…」
涙に滲み、大紋の貌がよく見えない。
温かな彼の大きな手が、暁の涙を拭う。
「…幸せになってくれ。…僕は誰よりも、君の幸せを祈っている。…祈ることしかできない僕を許してくれ…」
大紋の手が、暁から離れる。
温もりが途絶え、彼は暁に背を向けた。
手を伸ばせば、男の身体に触れることができるのに…
暁は唇を噛み締め、自分の溢れ出る情動と闘う。
…いかないで…
心の中だけで呟く。
…本当は彼を妻のところへなど帰したくない。
自分のものにしたい。彼と二人で生きてゆきたい。
…だが、できない。してはならない。
心と身体がばらばらになりそうになっても、暁は必死に耐え続ける。

…大紋が静かに扉を開き、部屋を出る。
遠ざかる足音がやがて消えた。

…暁は声を押し殺し、一人泣いた。
泣きながら、ひっそりと心に決めた。

…もう、二度と…恋はしない…
…もう、二度と…人を好きにはならない…と…。



/479ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ