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暁の星と月
第12章 堕天使の涙
月城が縣邸を辞する為に、玄関ホールまでの回廊を通っていると、中庭から声がかかった。
「月城、もう帰るの?」
振り返ると、両手に白いジャスミンの花を抱えた光が佇んでいた。
サーモンピンクのドレスに白いふんわりとしたケープを、掛けた光は穏やかな美しい表情をしていた。
「…はい。光様」
目礼すると、光が微笑んた。
「…少し、いいかしら…?」
光はそのまま中庭の葡萄棚の下の籐の椅子に月城を誘った。
月城は光の後を付き従う。
光はジャスミンの花束を月城に差し出す。
「この屋敷の庭師が丹精込めたジャスミンよ。とても薫りが良いから、梨央さんに差し上げて」
「ありがとうございます」
月城はありがたく押し戴く。

並んで座ると、ほどなくして、光が口を開いた。
「…ねえ、月城。貴方、暁さんとは親しかったわよね」
光の口からも暁の名前が出て来て、月城はどきりとする。
「…親しいなど、烏滸がましいですが…」
謙遜すると、光は少し沈んだ表情で続けた。
「…暁さんは…私のことがお嫌いみたいなの…」
月城は驚きに眼を見張る。
「そんな、まさか…!」
「いいえ、もちろん私にはとても優しく丁寧に接してくださるわ。いつもご親切で、笑顔で…嫌な貌ひとつなさらない。
でも…あの美しいお貌に、暁さんのお心が感じられないの…。…あの完璧にお美しくてお優しいお貌は仮面のように私には感じられるの」
…光は一見勝気で強気に見えて、実はとても繊細で傷つきやすい性格だ。
そして、他人の心の機微に敏感だ。
「…暁さんにとって礼也さんは絶対的でかけがえのない方なのよね。…その礼也さんを…私が横取りしたように思ってしまわれているような気がして…」
光が哀しげに溜息をつく。
「…光様…」
「…私は暁さんと仲良くしたいの。私には男兄弟がいないから、暁さんとは本当の姉弟のようになりたいの。…暁さんにお兄様のつぎにはお姉様ができたと思って甘えていただきたいの。…でも、暁さんは私との間に見えない壁を作っていらっしゃる…。それがとても残念だわ…」
寂しく笑った光に、月城は穏やかに言い聞かせるように答える。
「…暁様はとてもお優しくて繊細な方です。今まで縣様とお二人の生活だったので、戸惑われているだけかと存じます。…もう少し、暁様が光様に慣れていらっしゃるまで、お待ち頂けないでしょうか?」
光が意外そうな貌をして月城を見上げた。


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