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暁の星と月
第13章 暁の星と月
「どうしたのだ?改まって話があるなどと…」
突然、暁の居室に呼ばれた礼也はやや戸惑ったように、椅子に腰掛けた。
「…申し訳ありません。急にお呼び立てしてしまい…。
…でも、どうしても兄さんに聞いていただきたい話があるのです」

白いシャツに黒いスラックス姿のシンプルな服装の暁は、兄の眼から見ても驚くほどに美しく、そしてどこか艶やかだった。
その儚げな美貌に浮かぶそこはかとない色香に思わず魅せられる。
…実の弟なのに…。
昔からそうだった。
暁は礼也の庇護欲を恐ろしく掻き立てる不思議な存在だった。
先日の怪しげなバーに暁が出入りしているらしいという話を聞いた時も、馬鹿げたことだがまず礼也の胸に浮かんだのは嫉妬にも似た自分でも御し難い感情であった。
…暁が他の男に囲まれ、淫らなことをしていると想像しただけで、胸が焼け付くような妬心に襲われたのだ。
…まるで…自分の愛しい恋人を奪われたかのような…。

…馬鹿馬鹿しい。暁は私の実の弟だというのに…。
礼也は慌てて自分の背徳めいた考えを振り払う。
そしていつもの優しく甘やかすような表情で尋ねた。
「…どうした?…何かあったのか?」
暁は暫く長い睫毛を伏せ言い淀んでいたが、やがてゆっくりと瞳を上げると礼也をじっと見つめた。
薄紅色の形の良い唇が解かれる。

「…兄さん、僕はこの家を出たいと思います」
礼也は思わず我が耳を疑った。
余りに予想外の言葉に声も出ず、ただ暁の貌を見つめた。
「…今、何と言ったのだ…?」
漸く出た言葉は我ながら間抜けなものだった。
「…家を出て、自立したいのです。…仕事は勿論続けたいと思います。…兄さんが…許して下さったら…ですけれど…」
「何か不満なことがあるのか?…使用人か?お前に懸想するメイドでもいたのか?それなら私がきつく言い渡す。
…それとも…光さんと…上手く行ってないのか…?」
矢継ぎ早に質問する礼也に暁は慌てて首を振る。
「違います!使用人の皆さんは良い人ばかりです。何の不満もありません。
光さん…義姉さんも、僕は好きです!」
「ではなぜそんなことを言い出すのだ⁈」
…とやや声を荒げ…はっと気づいたかのように弱々しい声で続けた。
「…私か?…私が原因なのか…?…私と暮らすのが嫌なのか?」
暁は叫んだ。
「違います!…僕は兄さんが大好きです!兄さんは僕にとってかけがえのない存在です!」

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