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サイレントエモーショナルサマー
第30章 bacio

水曜の夜から禁欲を強いられる時期が始まった。それがあってもなくても今、私はチカの監視下にあってふわふわした真似は出来ないし、色々葛藤がある訳なのでしやしないだろうが、土曜の藤くんのことを思うと少し胸が痛んだ。

彼はきっと私に触れたいだろうし、セックスがしたいだろう。私だってしたい。前回以上に言い出しづらい状況になってしまった。

木曜はミヤコちゃんから翌週末の花火大会に何人かで行かないかと誘われた。彼氏はいいの、と聞けばミヤコちゃんの彼は海外出張で今月いっぱい戻ってこないので寂しいと言う。しょんぼり顔のミヤコちゃんがなんだか可愛くてぎゅっと抱き締めると、彼女は都筑さんっていい匂いして柔らかいですね、と笑った。

金曜の藤くんは一際ご機嫌で、私はその様を見て益々胸を痛めた。ごめんよ、藤くん、明日は出来ないんだよ、と中々言い出せず、チカのマンションまで私を迎えに行くという藤くんをなんとか抑え込んで、待ち合わせの駅を決めた。朝が弱い私を気遣ってか11時の待ち合わせになった。

◇◆

「……なんでそんな浮かない顔してんのよ」

土曜の朝、クロワッサンとサラダの朝食を食べながらチカが言う。彼女も今日はユウジさんとデートらしく気合の入った服装とメイクがばっちり決まっている。ユウジさんが可愛いと言ったらしい髪型も少し伸びていたがアレンジが可愛らしかった。

「だって、折角藤くんと会うのにセックスできないんだよ」
「あんたさ、セックスしたいから藤くんに会うの?違うでしょ」
「違うけど…でも、したいもん。月曜の夜が最後だよ。やばいって」
「心は治ってきたけど身体は治ってないってことね。寧ろそこは藤くんの所為で悪化してんのか」
「強ち間違ってないかもしれない」

言いながら温くなったコーヒーを啜る。バカな子、とチカは言ってグレープフルーツジュースを飲んだ。朝食の後片付けは私がした。チカは簡単に私の髪もアレンジして、とりあえずちゃんと普通のデートを楽しんでこい、と私を送り出した。
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