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サイレントエモーショナルサマー
第30章 bacio

「な、なるべく我慢します…とりあえず来週の水曜まではご安心ください」
「…なんだその期限」
「ま、まあ、色々よ…」
「いいか、俺は嫌だぞ。嫌だけど、あいつならお前を泣かせたり、乱暴にはしないって思うからマシだってだけだからな。もし、万が一しても報告なんかすんなよ」
「……しょ、承知した」

広い意味で言えばセックスの度に泣かされている。藤くんも似たようなことを晶に言っていた。浩志からのお許しが出たといえば出たが、これは藤くんには言わない方が良さそうだ。

言えば、藤くんはじゃあもうお友達の家に帰る必要ないですよね、と言いかねない。そんなことになれば私は結局セックスに流されてまたぐずぐずしてしまう。

難易度が高すぎる。問題山積み。私の三大欲求はいまだ性欲が最優先であるし、浩志と藤くんのどちらかを選ぼうにも彼らにはそれぞれの優しさと、それぞれの愛情がある。

それなら、いっそ。ああ、そうだ、いっそどちらも選ばなければ、片方を傷つけるというこは避けられる。だが、どちらも傷つける。

「頭で余計なことごちゃごちゃ考えるな。言っただろ、お前は、お前らしく自分が楽で居られるところに居れば良い」

黙り込んだ私の頭の中を読んだかのように静かに言って、後頭部をゆっくりと撫でる。身じろいで少し距離を取り、浩志の目を見つめた。私と、よく似た色。よく似た瞳。彼の目で見る世界は私と同じ景色だろうか。

浩志の頬へと手を伸ばす。唇を彼の唇へ寄せて、目を伏せる。薄く口を開いても浩志はそれ以上はしてこなかった。
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