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サイレントエモーショナルサマー
第30章 bacio
「なんで、今、そんな顔するんだよ」
顔の熱さを感じていると浩志が小さく言う。
「わ、わかんない…なんかすごい恥ずかしい」
赤くなっているであろう顔を見られたくなくてさっと下を向いてそれを隠した。膝の上で拳を握ると浩志の手が再び私に触れ、恐々と抱き寄せられる。
「…細いな。独りきりだって顔して強がってるけど、お前はやっぱり細くて、弱い」
ほんの少し、汗の匂い。浩志の心臓もどくどくと速い鼓動を刻んでいる。背中に腕を回して、彼のTシャツをそっと掴む。
好きだ。震える腕が、愛おしい。
「…お前、明日から藤に気をつけろ」
「え、なんで?」
「……俺、休みなんだよ。夏休み、ずらせなかった」
耳元の低い声。それを聞きながら、だからか、と思った。だから藤くんは月間予定表を見ながらニヤニヤしていたのだろう。
「…な、流されちゃうかも」
「お前なぁ…」
「だって、こんなことになると思ってなかったから荒療治が間に合わなくて…」
「はあ?…まあ、どこ誰か分かんねえやつより藤の方がマシっちゃマシだけど…いや、でも…すげえ嫌だ」
私を抱く腕の力が強くなる。低い声に葛藤の色が滲む。藤くんとは真逆だ。彼は私がどこぞの男とセックスをすることより浩志との仲の方を嫌がった。だが、浩志は藤くんの方がマシだと言う。