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サイレントエモーショナルサマー
第32章 scintilla
「…私が、なにに怒ってるか分かる?」
昼過ぎに目を覚まし、戦々恐々しながらチカの家へ戻った。にっこりと笑ったチカに出迎えられた筈だが、彼女はソファーで足だけでなく腕も組んで座り、ソファーの前に正座している私と藤くんを見下ろしている。ひ、と身をちぢこめ俯くと、目を逸らすな、と怒った声。
「せ、セックスしちゃったから…」
「そっちじゃねえわ。連絡入れろっつの。なんかあったんじゃないかって心配するでしょうが!」
「…え?そっち?」
「そうだよ。あんたの『病気』が治ってないのなんか分かってるし、その内、ごめん我慢できないって言い出すとは思ってたよ。寧ろよく持った方だね。だけどね、帰ってこないなら帰ってこないって連絡しなさい」
「……はい」
「えっと…すみません、俺が…スマホを取り上げまして…」
「あのね、君も甘やかすだけが愛情じゃないのよ。キスしてセックスして好きだって言ってるだけじゃこのバカの気持ちはどうにも出来ないからね」
「…ご、ご忠告痛み入ります」
チカはどうにも出来ないと言ったが、振り返ってみると私は結局キスとセックスに夢中になって好きだと言われ続けほだされている。私が『病気』でなければ、藤くんの愛情も浩志の愛情も理解することが出来なかった訳だ。
快楽を求めてしまう本能を情けないと思いながらも、これがなかったら『今』がないかと思うとなんとも複雑な気持ちになる。
しゅんと身を小さくすると膝の上で握った拳に藤くんの手が被さる。反省顔だった筈が、へらりと笑っている。そのふわふわした笑みに気付いたチカは深い溜息を吐いて立ち上がる。
「…ったく。着付け、行くんでしょ。どうせなにも食べてないんだろうかちょっとでも食べてから行きな」
お説教タイムは終了らしい。ごめんなさい、と小さく呟くと、次やったら追い出す、と言われた。藤くんはそれを聞いてにやりとする。そうなれば自分の家に連れ込む気なのだろう。