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サイレントエモーショナルサマー
第32章 scintilla
「言っておくけど、どうぞセックスしてくださいって言ってるんじゃないからね。どうにもこうにも我慢できなくなってどっかのどうしようもない男とセックスしちゃうくらいなら藤くんのとこの方が安心だって話だから」
「…こ、心得ております」
「ん。分かってるならいい。はい、これ食べて。あんたは首にこの絆創膏を貼って行きなさい」
「え、隠すんですか?」
「ぶっ飛ばされたいの?」
「い、いえ…調子乗ってすみません」
ささっと3人分の昼食をこしらえたチカが大きめな絆創膏を出してくると藤くんはつまらなそうに言った。だが、チカに睨まれ引き下がった。自分ではよく見えないが藤くんが付けたうなじのキスマークは相当目立つらしい。
「私も今日彼と花火行くけど、今日は外泊厳禁だからね。ちゃんと帰ってくること。分かった?」
「なんとしても戻ります」
「……チカさんも彼氏さんとお泊まりしたら良いんじゃないですか?」
「あんた達とは順序とペースも違うの。バカなこと言ってると花火行かせないよ」
「発言を撤回します」
「よろしい。はい、行ってらっしゃい」
絆創膏は藤くんが渋々貼ってくれた。ミヤコちゃんとは店で会う約束をしている。チカの家からだと30分もあれば着くだろう。藤くんに時間を問えば、14時20分だと言う。調度いい時間だ。
「…俺ね、これでもへこんでるんですよ」
「ん?なにに?」
手を繋いで駅へと歩きながら藤くんがそっと言う。横顔を見上げると彼はこちらを向いてにこりとしたが、なんだか寂しげに見えた。
「結局、心では中原さんに負けてるんだなって。俺は身体でしか志保さんを繋ぎとめられてない」
「藤くんはそう思うかもしれないけど、私の中では優劣なんかないよ。どっちつかずで申し訳ないって思ってるけど、藤くんは藤くんで大事だし、浩志は浩志で大切なの」
人が人を想う気持ちに優劣などつけてたまるか。きっかけが様々なように愛情の形も様々だ。私にそれを気づかせてくれた藤くんが優劣をつけるようなことを言ったのは少し寂しい。