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サイレントエモーショナルサマー
第32章 scintilla

呼び止めたはいいもののなにも言えずに浩志の顔を見上げる。かけてくれたタオルケットから手を出し、浩志のTシャツの裾を掴んだ。

「どうした?」
「……ね、寝るまで…ここに居てくれませんかね」
「お前…なんだよ、ガキみたいなこと言って」
「なんか…不安で…嫌なこと言われたから、」

分かったよ、と言った声は低く優しい。かさついた大きな手がそっと髪を撫でてくれた。目を伏せると言葉が胸の奥底から湧き上がってくる。

それを浩志に告げたら彼はなんと答えるだろう。それは藤くんとどんなおじいちゃんとおばあちゃんになりたいかと話していた時には言えなかった言葉だ。

「浩志…あのさ、」
「ん?」
「………私を独りにしないって…私より先に死なないって約束してくれる……?」

髪を撫でていた手がぴたりと止まる。目を開いて浩志の顔を見ることは出来なかった。そっと息を吐く音。ぎしりとベッドが軋んだかと思うと額に柔らかいものが触れた感触があった。

「んなもん、分かんねえよ…でも、約束する。1分でも1秒でもお前より先には死なない」

そっか、ありがとう、と言った声は自分でも驚くほど消えりそうな声だった。閉じた瞼の端から涙の粒が溢れ出す。浩志は、泣くなよ、というように優しくもぎこちなくその涙を拭ってくれた。
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