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サイレントエモーショナルサマー
第35章 astuto
もし、藤くんが居なくなってしまったら私はどうなる?前にもこんなことを思ったことがあったっけ。あの時、私はどうなってしまうだろうと思っただけでその先を考えることは放棄した。
「じゃあ、楽しいこと考えましょ。こうするのは嫌っていうんじゃなくて、こうしてたら楽しいってこと」
「…楽しいこと?」
「なんでもいいです。楽しかったことでもいいですよ。俺は、色々あったけど志保さんと行った旅行楽しかったです。まあ、志保さんが居れば俺は毎日楽しいですけどね」
「今も、楽しい?苦しくない?」
「寂しいも、苦しいもあります。だけど、あなたに触れれば全部吹き飛ぶ。だからこうしてずるいことする俺を許して」
もたもたしているのは私なのに藤くんはまるで自分が悪いみたいな言い方をする。目を開けて起き上がろうとすると彼は絡んだ指を引いてそれを制した。
楽しかったことを思い浮かべるとそこには様々な藤くんの表情がある。笑顔ばかりではない。トマトを嫌がるちょっと幼い顔も、旅先で過去を語った時のあの苦しそうな顔も浮かんできた。
小さくなる私を、彼は色鮮やかな場所へ連れて行ってくれるのだ。この先も、きっとそうなのだろう。
「藤くん、私ね、」
私が口を開こうとすると藤くんは起き上がって、私に覆い被さった。なに、どうしたの、と問う声は彼の唇が吸い取る。私を見つめるアンバーが揺れて見れる。なにに?彼は今、なにを思ってる?
「…すみません、聞いたけど聞くのが恐いから」
「え、待って、ちょ…こら!話聞いて!」
「あと、触ってた所為で我慢できないです。明日、また話しましょ」
「マイペースか!ちょっと…んっ…ね、藤くん、」
絡んでいた指が離れて、その指は私の髪を一房すくった。慈しむように口づけて、私の頬を撫でる。ああ、もう藤くんは獣の顔だ。情欲一杯の瞳は美しい。