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サイレントエモーショナルサマー
第35章 astuto
肌触りの良いタオルで身体を拭いてもらった。藤くんの身体も拭きながらあの嫌な匂いが消えたことに満足してすりすりと頬を寄せる。
髪はタオルで拭いただけで濡れていたが、藤くんに抱き上げられ浴室を出てベッドへと下ろされた。ぎゅっとしがみつくと背中を撫でてくれる。
「…今週、ちょいちょい苛々してるみたいでしたけどなんかありました?」
背中を撫でたり濡れた髪に口づけたりしながら静かに問われ、黙り込む。自分でも何故あんなに苛立っていたのかよく分からなかったのだ。口を噤んでかぶりを振ると押し倒された。
「言葉にして。志保さんはそうやってすぐ黙りますね。ちゃんと言わないと誰にも何も伝わりませんよ」
私の手を持ち上げて手首に口づける。シャワーを浴びている間にあの赤みは引いていた。優しく微笑んで、隣に横になるとそっと身体を抱き寄せてくれる。
腕枕をしてもらって、反対の手は指を絡めあう。時折、額にキスをしながら彼は私の言葉を待っているみたいだ。
「…自分のことなのに、どうしたいか分かんないのが情けないんだよ…ずっとふらふらしたままで答えが見えない。息苦しいんだ」
口に出してみると肩の力が抜けたような気がした。絡めた指に力を込めて藤くんの顔を見る。どちらともなくキスをして、舌が絡むと彼は私の閉じた足の間に強引に片足を割り込ませた。
「俺と、こうしてるの嫌ですか?」
「嫌じゃないけど…なんだろ…こうしてる間に答えを先延ばしにしてるみたいで…藤くんには触れたいし、キスもしたいしセックスもしたい…でも、」
でも、なんだ?深く息を吸って、目を伏せる。藤くんの優しくてほっとする匂い。私を包み込む体温。ああ、そうか。浩志に対する後ろめたさだけが理由ではないのだ。この優しい人を苛々の捌け口にしてしまっていることも嫌なのだ。