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サイレントエモーショナルサマー
第36章 pavida
カーテンを閉め切ってもぼんやりと明るい部屋で、藤くんの寝顔を見下ろす。私より先に起きることの多い彼は珍しくまだ眠りについている。随分と気持ち良さそうだ。しっとりと指に吸い付く頬をつんつんとつついても身じろぎ一つしない。
しばし美しい寝顔を見つめていると喉の渇きを覚えた。水を貰おう。ベッドから抜け出そうとすると、弱く手首を掴まれる。
「……どこ行くの」
「おはよう。お水、貰っていい?」
「行かないで。もうちょっとここに居てください」
「どうしたの?まだ、帰らないよ」
寝起きで掠れた声がもう一度、行かないで、と言った。よしよし、と髪を撫でて横になる。強く抱き締められ、骨が軋んでしまいそうだ。
「藤くんが甘えんぼは珍しいね」
「……ですから」
「え?ごめん、聞こえなかった」
ねえ、なに?と問うが答える気はないらしい。もう、と彼の頬を抓るとくすぐったそうな顔になる。ちゅ、キスをして目を見つめれば、藤くんからもっととねだられた。何度かキスをすると満足したのかゆっくりと瞼を下ろす。
様子がおかしい。どうやら段々と目が覚めていっているようで私を抱く手は悪戯に背を撫でたり、尻に触れたりするのだが、私が声をかけても藤くんは頑なに目を開けない。起きないと帰っちゃうよ、と意地悪を言っても、嫌だと言うだけである。
きゅうと私の腹の虫が鳴けば、そこでようやく薄らと目を開く。やっとこっちを見た。至近距離でかち合う視線。美しい筈のアンバーに陰りが見える。
「どうしたの、藤くん」
頭を撫でてやっても、藤くんは捨て犬のような顔をする。今日は一段と扱いづらい。彼の気の済むまで好きなようにさせておこうと決めて、大人しくしようとすると再びお腹が切ない音をあげる。今度は藤くんのものも一緒だった。