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サイレントエモーショナルサマー
第36章 pavida
半裸の部長は見たくない。うっかり想像してしまって吹き出すと、浩志は私がなにを想像して笑ったのか分かったらしく、眉を顰めた。
買って来たカットフルーツを何故か私も一緒になって食べて、少し話をしている内に浩志の顔色はいくらか良くなったように見えた。もう一眠りするという浩志が寝室へ向かったのを尻目にゴミやお椀を片付ける。
帰るね、と声をかけようと寝室を覗くとベッドに横になった浩志に手招きをされた。
「なに?添い寝して欲しい?」
「気色わりーこと言うな。お前ちょっと…あれ取ってきてくれ…あの、冷やすやつ、冷凍庫に入ってる」
気色悪いとは随分な言いようである。はいはい、と返してご所望のものを取るべくキッチンへと戻る。冷凍庫を開けてみると私が好んで食べるアイスの箱の影に見覚えのある包みが5つ転がっていることに気付く。
成瀬ちゃんが作ったお菓子だ。持ち帰ってどうしていたのかと思っていたが、冷凍してあるとは思わなかった。なに考えてんだ、あいつは。
アイスノンとタオルを手に再び寝室に向かった。横になって目を閉じている姿はあまり記憶になかった。彼とは一度も一緒にベッドで眠ったことがない。
「持ってきたよ」
「……ん」
手渡そうとするとそのまま腕を引かれ、ベッドに倒れ込んだ。熱い身体。藤くんとは違う体温。私を抱き寄せる腕の感触も彼とは違う。
浩志に話を切り出すのも今日ではない方が良いだろう。苦しげに熱い息を吐く彼の腕に触れながら思う。
正直、自分の中に浮かんだ答えは酷くおぼろげで、自信を持って言えるのかと問われてみると、イエスとは言えない。でも、やっと芽生えた大切な気持ちだ。ずっと恐れてきた感情を口にして伝えることへの不安はあるが、それを伝えたときの『彼』の顔が見たかった。
伝えれば、片方を傷つけることも分かっている。私に出来るのはそれでも嘘のない言葉を伝えることだろう。
「…ごめんな、都筑」
ふいに響いた声で浩志の顔を見るが、目を伏せて寝息を立てている。寝言か。腕から抜け出しベッドの縁に腰かけて、寝顔を見下ろした。
「ごめん、は私の台詞だよ」
小さく言って浩志の髪を撫でる。暫くの間ただぼんやりと彼の寝顔を見つめてから静かに部屋を後にした。