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サイレントエモーショナルサマー
第38章 affetto
美しい瞳に私が映っている。不思議。ずっと見つめていたら吸い込まれていきそうだ。にこりと微笑んだ藤くんの手が私の頬を包み込む。
「愛してます。誰よりもあなたを愛してる。この先も、ずっと」
「おじいちゃんになっても?」
「もちろん。俺の夢は志保さんの隣にいるおじいちゃんになることですから」
「えー、私の夢はね、魔法のランプを…」
「はいはい、そういうのいいです。帰りますよ」
「ちょっと!ちゃんと聞いてよ」
「うちに帰ったら聞きます」
「……聞く余裕あるかな」
「なに考えてるんですか。退院したばっかりなんだからセックスはなしですよ」
「じゃあ、チカの家帰る」
ぷいと強引に顔を背けると、頬へのキス。くすくすと笑い合って、手を繋ぎ直して荷物を拾って歩き出す。きっと、私たちはこうやってくだらないことを言い合いながらおじいちゃんとおばあちゃんになっていくのだろう。
以前、藤くんは私がかっこいいおばあちゃんになると言ってくれたが、本当にそうなるのかな。
視線を感じてそちらを見るとにこりと笑った顔がある。ほっとする。藤くんにとっての私もそんな存在でありたい。
彼のことを想うと胸にはあたたかな熱が満ちる。ああ、これが幸福か。誰かを想って幸せな気持ちになったのは初めてだ。この夏がなければ知らぬまま死んでいったのかもしれない。
静かに、それでいて情緒的に変化した夏は、その変化をもたらした愛しい人とともに、ゆっくりと、ゆっくりと、秋へ、向かっていく。
Fin.