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サイレントエモーショナルサマー
第38章 affetto
心臓の音がうるさい。ちょっと待って。落ち着かせてくれ。もう一度、深呼吸。ごくりと喉を鳴らし、口を開く。
「私と、結婚して」
― ん?
いま、私、なんて言った?
「いや、違う。待った。今のナシ、やり直し!勢い余った!」
「それ、全部不可です」
慌てふためいて藤くんから逃げようとするとぎゅうっと抱き締められる。ちがうちがう!と繰り返してもがくが、ちゅっと頬に口づけられたり、髪を撫でられれば大人しくせざるを得ない。
「待って、ほんと…ちがうっていうか…いや、ちがくはないんだけど…まだ色々解決してないし…」
「そんなの全部後でいいです。俺はもうあなたを誰にも取られたくない。俺と、結婚してください。返事はイエスしか聞きません」
「……ずるいよ」
「お互い様でしょ。出張前これが最後みたいに甘えてきたときの志保さんもかなりずるかったですよ」
「いや…あれはさ…ある意味、曖昧な状態への別れの意味があって…ていうか、あのしません宣言いらなかったからね。私の気持ちはあの時もう決まってたんだから」
次に彼に触れる時は今までとは違う自分でありたかった。出張前のキスには一方的に彼に甘えていた自分への別れの意味があったのだ。
「そんなこと言われたって、あの時点で選んでもらっても結局身体かって不安だったんですよ」
「身体じゃない。藤くんと話したとき、思ったの。楽しかったこと考えたらそこには色んな藤くんの姿があった。この先も色んな藤くんを見ていきたい。私、あなたが居ればどんな未来も恐くない」
だから、ずっと一緒に居て、と言おうとするとキスで遮られる。吹き抜ける風が紅潮した頬を冷ましていく。唇を離して、見つめ合う。