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メタモルフォーゼ
第1章 羞恥の作品
「変化、って意味なの」
 店の名の由来を聞かれるたびに、辻本利美はそう答えることにしていた。
 実際には少し違う。
 ドイツ語の「メタモルフォーゼ」は「変化」の他に「変態」という意味がある。
 この「変態」は昆虫が幼虫から成虫へと成長することを指す言葉で、サナギを経るものは完全変態、そうでないものは不完全変態と呼ばれる。
 経営するバーの名前に『メタモルフォーゼ』を選んだのは、「変化」していきたいという意味の他に、辻本利美自身の性癖が「変態」と呼ぶほかはないことにも由来していた。
 利美は若い女の子に性的に虐められることを何よりも好んだ。
 と言っても、現実にそんな女の子が現れるわけもなく、妄想の世界でだけの話ではあるのだが。
 男に抱かれるときも、頭の中でのそれは美少女が身につけたペニバンだった。
 ただ、雰囲気からも滲み出る「女好き」のオーラは次第に利美から男を遠ざけ、『メタモルフォーゼ』、略して『メモゼ』は女ばかりの店になった。
 そこにある夜、利美にとっての運命の女が現れた。
 紫のワンピースに淡い金色の髪を流しつつ、立ったままジンをストレートで注文し、カウンターに座ると声も立てずに涙をスウッとほおに流した。
 そしてストレートのジンを三杯、一気に流し込み、立ち上がると、隣に座っていた女同士のカップルの一人の胸ぐらを掴んで、その頬を平手打ちした。
 店の雰囲気は凍り付いた。
「ごめんなさい」
 謝ったのは打たれた女だった。
「ここは払っておいて」
 そう言ってその女は『メモゼ』を後にした。
 打たれた女はカウンターに突っ伏して号泣し続けた。
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