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第1章 トレンチコートのおんな
Aとは、5ヶ月前にバーで出会った。黒いトレンチコートを着たロングヘアーの女。
今日もケータイにメールが5件も連続で入ってきたから、返信に正直困っているのだけども、とりあえずカエルの絵文字を3つ並べて返信し、午後の仕事に移った。
「健也さん、お疲れさまです。部長から○○の件、もう聴きました?」
派遣のCだ。高校を卒業してすぐに当社に来ている。明朗快活でどこか抜けたところがあり、可愛らしいショートカットの女性だ。
「聴いてないですよ。○○って無くなったんじゃなかったっけ?」
「それが、予定を繰り上げて明後日の13時から、会議室Bで行うそうです」
「あぁ、本当に?ありがとうございます、助かったよ~☆」
Cが嬉しそうに自分のデスクに戻っていったのを眺めつつ、私は目の前のパソコンの画面で、仕事に取りかかる。
ケミカルエンジニアリングをいわば生業にしているのだが、先日設置されたA-5棟の配管がどうも規格に合わなかったらしい。それもあって、いま手元の関数電卓で計算しながら、規格に合う配管の条件を割り出していた。
「・・・・・・ぅーん。レイノルズ数があれだから、えっとー、この数値範囲でいいかな?」
ムーンムーンムーンムーン(バイブ音)・・・・・・ケータイが鳴った。着信だ。私は席を離れて、階段の踊り場付近で応答する。
◆応答開始
はい、健也です。 / ・・・・・・健也君?いま大丈夫?
あぁAさん、メールすんません返すの遅れて。 / そうじゃないの、渡したいものがあって。
えぇ?何ですか? / 今日か明日、仕事終わったら会える?
(電話の向こうでAがすすり泣きしているのが聞こえる)
どうかしたんですか!? / ぅん、ちょっと、えっと・・・・・・。
うーん、今日はですねちょっと。 / ぅう、いいの。
明日だったら、大丈夫だと思います。 / ごめんね、本当に。
あぁ、じゃあ明日19時半にまたバーでいいですかね? / ありがとう。待ってる。
(まだすすり泣きしているのが聞こえる)
ちょっと仕事に戻らなきゃならないんで。 / ごめんね、あ、切るね。
◆応答終了
ったく、あの女。寂しいのは分かるけどさぁと思いながら、デスクに戻る。
今日もケータイにメールが5件も連続で入ってきたから、返信に正直困っているのだけども、とりあえずカエルの絵文字を3つ並べて返信し、午後の仕事に移った。
「健也さん、お疲れさまです。部長から○○の件、もう聴きました?」
派遣のCだ。高校を卒業してすぐに当社に来ている。明朗快活でどこか抜けたところがあり、可愛らしいショートカットの女性だ。
「聴いてないですよ。○○って無くなったんじゃなかったっけ?」
「それが、予定を繰り上げて明後日の13時から、会議室Bで行うそうです」
「あぁ、本当に?ありがとうございます、助かったよ~☆」
Cが嬉しそうに自分のデスクに戻っていったのを眺めつつ、私は目の前のパソコンの画面で、仕事に取りかかる。
ケミカルエンジニアリングをいわば生業にしているのだが、先日設置されたA-5棟の配管がどうも規格に合わなかったらしい。それもあって、いま手元の関数電卓で計算しながら、規格に合う配管の条件を割り出していた。
「・・・・・・ぅーん。レイノルズ数があれだから、えっとー、この数値範囲でいいかな?」
ムーンムーンムーンムーン(バイブ音)・・・・・・ケータイが鳴った。着信だ。私は席を離れて、階段の踊り場付近で応答する。
◆応答開始
はい、健也です。 / ・・・・・・健也君?いま大丈夫?
あぁAさん、メールすんません返すの遅れて。 / そうじゃないの、渡したいものがあって。
えぇ?何ですか? / 今日か明日、仕事終わったら会える?
(電話の向こうでAがすすり泣きしているのが聞こえる)
どうかしたんですか!? / ぅん、ちょっと、えっと・・・・・・。
うーん、今日はですねちょっと。 / ぅう、いいの。
明日だったら、大丈夫だと思います。 / ごめんね、本当に。
あぁ、じゃあ明日19時半にまたバーでいいですかね? / ありがとう。待ってる。
(まだすすり泣きしているのが聞こえる)
ちょっと仕事に戻らなきゃならないんで。 / ごめんね、あ、切るね。
◆応答終了
ったく、あの女。寂しいのは分かるけどさぁと思いながら、デスクに戻る。