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囚われの天使たち
第2章 支配
綺麗な体だな。
男はパイプ椅子に腰掛けてそんなことを考えていた。
廃工場の地下室である。地下室だから、もちろん日光は届かない。コンクリートに囲まれた無機質な室内を照らすのは、天井から吊り下げたライトの、オレンジ色の光だけだ。
その光は弱いから、部屋の隅々までは行き届かない。事実、男の目からは対面の壁が見えなかった。
足を組んでパイプ椅子に座る彼の前には、1人の少女が寝転がっている。先ほど、男が誘拐してきた少女だ。ランドセルに付いていた名札によると、この子の名前は横澤奈津子というらしい。学年は小学4年生。世の中のことなど、まだ何も知らない年齢だ。
そんな無垢な少女の寝姿を、男はまじまじと眺める。
仰向けに床へ横たわり、顔は男から見て向こう側へやや傾いている。
服装はいたって簡素だ。飾り気がない。学校の指定なのかどうか知らないが、体操服を着ている。白い半袖と、青い短パン。その服装から伸びる細い手足はしなやかで、小麦色に焼けている。きっとスポーツの好きな活発な少女なのだろうなと男は想像する。
顔は実にあどけない。閉じている目は二重瞼で、少しだけ目尻が下がっている。瓜実型の顔は、きっと将来は美人になるだろうことを想像させる。黒い髪は短く切られていて、まるで男の子のようだ。
「……ん」
少女――奈津子――が声をあげた。向こう側へ傾いていた顔が、こくりと男の方を向く。細い眉の間に、苦しげな皺がよる。
やがて、奈津子は目を開けた。
「やあ」
男はにやりと笑って、そう声をかけた。
奈津子は何も言わず、ただぱちぱちと瞬きをしている。二重瞼の、少し目尻の下がった瞳がつぶらに輝いている。
「今の気分はどうだい」
男は大きくも小さくもない声で、奈津子にそう問いかけた。
奈津子は、徐々に状況を理解していったようだ。少しずつ呼吸が荒くなり、目には恐怖の色が浮かんでいる。
「やだ……」
震える小さな声で、奈津子はそう言った。