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囚われの天使たち
第2章 支配
同時に上半身を起き上がらせ、口許に両手の握りこぶしを当てる。
「やだ……!」
今度は、さっきよりも大きい声でそう言った。叫び声だった。床に尻をつけたまま、両足をじたばたさせて、パイプ椅子の男から遠ざかる。
しかし男は、微動だにしない。パイプ椅子に座ったまま、足を組み替えて優しく語りかける。
「怖いんだね」
それに奈津子は、細かく何度も首を上下に振って答えた。
「大丈夫だよ、奈津子ちゃん」
男はそう言いつつ立ち上がると、ゆったりとした足取りで奈津子へ歩み寄っていく。
「僕の言うことさえ素直に聞いていれば、何も痛いことはしない」
奈津子はさらに足で床を蹴って、後ろへ下がっていく。やがて奈津子の背中は、壁にぶつかった。もう後ずさりはできない。奈津子は後ずさりをする代わりに、顔を横に向けた。よく見ると、肩が僅かに震えている。よほど怯えているのだろう。それを見て、男はなんだか嬉しくなる。
「怖がることはないよ」
男は奈津子の正面にしゃがみこむと、片手で奈津子のショートヘアをさらさらと撫でながら言った。
「約束するよ。痛いことは何もしないってね。僕の言うことさえ聞いていれば、だけどね」
奈津子は嫌だ嫌だと小さく呟きながら、なおも肩を震わせている。
「じゃあ、さっそく言うことを聞いてもらおうか」
男はすっくと立ちあがり、震える奈津子を見下ろしながら言った。
「まずは立ちなさい」
奈津子はただ震えている。
「立ちなさい」
男はもう1度言った。それでも奈津子は、まだ震えているばかりだった。
突如、音が響いた。