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銀木犀の香る寝屋であなたと
第9章 銀木犀の香りと共に
「私、待ってます。そして兄さまのお話を聞かせて。いいでしょう?」
「……。一人でいる気なのか……」

「いけませんか?私は……藤井家に嫁いでもずっと兄さまのことを想ってきました。他の人と……」

 言いかけて珠子はぎゅっと口をつぐんだが、意を決して告げる。

「私は、私は……清くないですが……兄さまのことを、想うのはいけないでしょうか?
汚れている妹の顔など見たくないのでしょうか……」

「珠子っ。もう……言うな。お前は汚れてなんぞいない」

「兄さま……」

 一樹は珠子の細い肩を抱きしめる。珠子は一樹の逞しい胸に顔をうずめ、温もりを感じる。

「お前がずっと好きだった。幸せになってほしいと心から願ってきた」
「ああ、珠子は、珠子は今が一番幸せです。ずっとこうしたかった。いつも愛する人を愛してると言い、想っていたいのです」

「だめだ。僕には、使命がある。そばには居てやれない。兄として……幸せを祈っている」
「いいえ、いいえ。もう、妹ではありません。私は珠子ではありせん。『キヨ』なのです」

 珠子は一樹にしがみつく。
一樹は抱きしめたい衝動に抗ったこぶしを緩めた。

「キヨか……」
「ええ。もう兄妹ではありません……。お願いです、兄さま。お情けをくださいませんか……」

「珠子……。では、もう兄と呼ぶな……」
「か、一樹さん」

 一樹は両手で珠子の頬を挟み、じっと見つめ吸い込まれるように口づけを交わす。
初めてかわす口づけなのに、自然と貪る様に唇と舌を絡め合わせ、とろけるような触感を味わっていた。

「ああ……」

 珠子はうっとりとし、頭の芯がしびれてくるのを感じる。
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