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銀木犀の香る寝屋であなたと
第1章 月夜の出会い
 静かな満月の夜、眠っている珠子の部屋の外でハタハタと足音が聞こえた。珠子はなんとなく目を覚まし障子に目をやるとスッと人影が通った。(誰?)

 十歳の珠子が、母親代わりのばあやに寝かしつけられるのは八時前と早かったが、それでも使用人たちは彼女の部屋の前を通ることはない。
この先は庭で、塀の外に出るあまり使われていない扉があるだけだった。

 目が冴えてしまい、そっと起き出して足音の主を探る。障子を少し開けて覗くとL字の廊下の先で、履物を変える父親の浩一の姿が見えた。(おとうさま、どこにいくのかしら)

好奇心を抑えられずに、珠子は寝間着の上にさっと綿入れを羽織って後をついて行くことにした。


 浩一は急ぐふうでもなく、そっと扉の閂を開け、そのままにした。珠子は草履をはき音を立てずに慌てて後を追ったが、月光のおかげで見失わずに済んだ。

 扉の向こうはうっそうと茂る野草の中、細い道が小高い丘のほうへ向かって伸びている。珠子はこちらの扉から外へ出たことがなかったので、初めて見る裏山の様子に興味を持って見渡した。
ハッとして本来の目的を思い出し、細いガタついた小道を駆け上る。

浩一は後ろからついてくる珠子に全く気が付いておらず、やがて中腹の山小屋に入っていった。(こんなところに小屋があったの)

 小さな古ぼけた平屋に入ったのをしばらく見ていると、小屋の裏から少年がそっと出てきた。
隠れることをせずにぼんやり立っている珠子に少年は気づき、ぎょっとした顔で立ち尽くす。
珠子は警戒することもなく、少年に近づき小声で「ごきげんよう」とあいさつをした。

 少年は挨拶に驚いたが、珠子の手をつかみ「こっちっ」と小屋の裏の大きな木の根元に引っ張っていった。
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