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銀木犀の香る寝屋であなたと
第4章 少女時代の終焉
「もう冷えてきたから、お帰り」
「え、ええ。そうね」

 珠子の手を取り立たせ、裏の扉まで送る。閂はかかっておらず葉子と浩一はまだ小屋にいるようだ。

「せっかく帰ってきたんだからのんびりすればいいよ。ばあやが若返ったようだし」
「ぷっ。やだ兄さまったら」

「僕は明日下宿に戻るよ。しばらくは帰ってこれないと思うけど、身体を大事にするんだぞ」
「はい」

 次に会えるのはいつのことだろうか。

「あの……、兄さま……」
「ん?」

「いえ。おやすみなさい」
「おやすみ」

 言いたいことがあるが思うように言葉にできない。言葉にできたとしても、それを伝えたとしても何の意味もなさないかもしれない。
珠子はそっと襖を締め、暗闇の中で一樹の漆黒の髪と黒曜石の様な瞳を思い出す。(そばにいるのに)

 手が触れられるほど近くいたのにとても遠いのだと、初めて恋を失くしたことを知った。
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