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銀木犀の香る寝屋であなたと
第6章 再生
 戦況が激しくなり、町中をうろつくことは、ままならなくなってきた。幸い藤井家は田舎で小さな畑がありなんとか食つなぐことが出来ている。
 そんな中、メイドのナカが人生の終わりを迎えようとした。

「珠子、おくさま。今までありがとうございました。わたしはもう間もなくお迎えが来そうです」

「お願いよっ。そんなこと……」

「申し訳ございません……。藤井家にお仕えしてもう七十年以上になりました。最後に珠子奥様にお仕え出来て本当によかった……」

「こちらこそ、ありがとう。ナカさんのおかげで私、とてもとても頑張れたのよ」

「……。何もお聞きにはならないのですか?大奥様のことや文弘様のこと……」

 ナカは澄んだ瞳で珠子を見つめながら尋ねる。珠子は少し考えた。
 火災の時の二人の握りしめ合ったた手、文弘が達するときの呼ぶ名前、高子の想い……。
聞いてどうなるというのだろうか。

「いいえ。いいの。済んだことですもの。ナカさんが話したいのならお聞きするけれど……」

 はぁっと安堵のため息をつきナカは答える。

「いいえいいえ。何もございません。それではお先に失礼させていただきます。奥様もキヨさんもお元気で……。……」

 目を閉じたナカの顔は安らかで穏やかだった。

「う、うぅっ、うううぅ……」

「キヨさん……。寂しくなるわね……」

「うあぁうっ、ふっ、っく、ふぐっ」

 後ろでキヨはずっと泣くのを堪えていたが、ナカが静かに旅立つのを見て声をあげた。

 吉弘はきょとんとして腕の緩められたキヨから離れ、横たわっているナカの顔を覗き込み「もうねんねするの?ナカ。まだ夕方だよ」と言う。

 その様子に耐え切れず珠子も泣いた。
正座している膝に顔をくっつけ唇を噛んで泣いた。
戦友が逝ったのだ。
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