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空蝉
第32章 夏夜狂蕾


暑夏の夜更けに うなされて せつなく開く くちびるは

まだ、紅ささぬ そのうちに 熟れた吐息を 忍ばせて

闇に溶けいで 漂いぬ

啄む口を 探すごと 夢魔を褥に 誘うごと



暑夏の夜更けに 寝乱れし 衣の襟の 合わせには

双の乳房の 汗に濡れ

妖しき紅の 蕾さえ その頂に 咲き染める

弄る、誰かを 待つごとく 堕ちる蕾を 悼むごと



暑夏の夜更けに 帯とけて 衣の裾の 乱れゆき

真白き腿の 奥に咲く まだ、紅も いと淡き

隠花の蜜の 匂い立つ

散らせる人を 誘うごと 盗む男を そそるごと



暑夏の夜風は いたずらに 蕾の性を 狂わせて

まだ、紅の 染めきらぬ

開きもきらぬ 花にさえ 妖しき蜜を 滴らす

早う咲けよと そそのかし 慈悲なき指に 手折らせる





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